ハイブリッドで世界に羽ばたく日本企業

 この記事『ウーバーの自動運転事故 命関わる領域 日本に強み』は、IoT時代における日本企業のアドバンテージを明確に提言しています。IoT時代にあっても、その根幹には『モノづくり』があり、日本企業の重要性は変わらないと考えていましたが、では一体どのようにイノベーションを進めていくべきなのか、その道筋について、この記事を読むまで明確には把握できていませんでした。

そもそも、第4次産業革命とは、IoTとそれを制御するAIを活用することによって、コモディティ化するモノにサービスをセットして供給する、『コトづくり』が産業のあり方となる時代です。

●クローズド=UX(ユーザー・エクスペリエンス)と直結しない・・・『モノづくり』 『モノづくり』=メカニクス+エレクトロニクス+ソフト●ユーザー参加型=UXと直結・・・『コトづくり』のビジネスモデル 『コトづくり』=メカニクス+エレクトロニクス+ソフト+IoT+AI      =モノ+サービス(モノとサービスの融合)

つまり、業績を向上させるためには、製造業のサービス化は避けて通ることのできない課題で、その過程では、IT企業など異業種からの参入があり、熾烈な競争が起きます。自動運転などはまさにその典型な訳ですが、この自動運転の最大の特性こそが、この記事のカギとなっています。その特性とは、『人命に関わる技術』であるということです。

『人命に関わる技術』の開発においては、IT企業の得意とするアジャイル開発、初めに大まかな仕様と要求だけを設定して、イテレーション(小単位のPDCA)を繰り返しながら開発を進める方式は不適切です。人命が関わっているので、拙速なリリースは許されません。それでは、従来型の企業、日本企業の得意とするウォーターフォール開発、初めに全体の仕様・計画を決定し、この計画に従って開発・実装していく方式がそのまま通用するかと言えば、それでは駄目だというのがこの記事の要旨です。駄目な理由はいろいろ考えられますが、主な問題点としては――

① IT企業も自らの弱点を補うべく自動車メーカーとの連携を加速させており、今までのままでは、スピードで負ける。② クローズドな体質を引きずって、すべてを自社開発しようとすれば、スピードで負ける。③ 同じく、自社開発には、業界標準から乖離したものを開発してしまうリスクがある。

これらの問題点から浮かび上がってくるのは、いかにオープンにスピード感をもって開発するかという課題で、記事では、それをカジュアルとシリアスのハイブリッドと表現しています。そもそも、自動運転のような人命に関わるイノベーションが普及する際のイノベーションカーブは、絶対に近い安全性が確保されたとユーザーが確信しないかぎり、急上昇することは考えられません。その事は、逆に言うと、技術が完成したら、急速に普及が進むという事で、『人命に関わる領域』、シリアステックにおいては、限りなく完全に近い開発とスピード感のある開発の両方の要素が要求されているのです。

【IT企業】・・・・・・・・・・・・・・・・カジュアルテック・・・ウェブの領域・・・・・・・・・・・・・・・・・・・アジャイル開発  ⇓【誰が主導権を握るか?】シリアステック・・・人命に関わる領域(IoT・AIを活用)・・・ハイブリッドな開発  ⇑                                    ⇑【従来型の企業(日本企業)】・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ウォーターフォール開発

つまり、慎重な上にも慎重を期する開発手法にオープンとスピードの2要素が加味されれば、もともとメカとエレキが強く、また、バリューチェーンがそろった世界でも稀な国である日本には、明白なアドバンテージがあるのです。そのためには、この記事などから私が把握できた限りでは、次のような課題がありそうです――

① カジュアルとの連携において、いかにプロトコル、セキュリティーなどの溝を埋められるか。② 数多くの優秀なメーカー等が集積している日本国内で、いかにIoTデータを共有し、水平的な連携を構築できるか。③ IoTとAIによりもたらされる分析を積極的に課題解決に活用できるか(リードタイム短縮など多岐にわたる)。④ AIなど重要な技術に関わる人的リソースを、働き方改革も含めいかに確保するか。       

これらの課題を一文に言説化するとすれば、「チームを編成して人的リソースを確保し、IoTによって収集、AIによって分析される洞察によって開発を加速させる」という事になるでしょうか。言葉で言うのは簡単ですが、実際にハイブリッドな開発手法を編み出し、それを駆使して世界に羽ばたく日本企業が出現することを願ってやみません。そろそろGAFAの背中が見えてきても、いや、背中に手が届いてもいい頃合です。

https://www.nikkei.com/article/DGXKZO29032600V00C18A4H56A00/

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