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『天使の翼』第7章(19)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~

 攻撃―不時着―誘拐のパターンは、常に成功するとは限らないだろう。的を外せば――普通とは逆の意味で――、連絡船は、宇宙空間で簡単に空中分解してしまう。でも、三十年という長い年月を隠れ蓑にして、おぞましい犯罪が積み重ねられてきたことが、白日の下にさらされたといってよい。男爵との会見で『一件か二件でもマッチングするケースがあれば』と言っていたのが思い出される――現実は、まさに想像を絶していた……
 「君のご両親――といっても、犯人の目的はお母上だったと思うけれど――、そしてほかの多くの吟遊詩人に対する犯罪――」
 「――吟遊詩人狩り」
 わたしの言葉に、シャルルはぴくりとして首を振った。……吟遊詩人の狩場という表現を最初に使ったのはシャルルだったけれど、彼は、わたしを前にして、『吟遊詩人狩り』という生々しい表現は使いたくないのだ。
 「今までは推測の域を出なかったけれど、これで、吟遊詩人の連続誘拐事件が、現実に存在し、今も、今この瞬間も続いていることが、確実となった」
 ……と、言うことは――
 「問題は、犯人が誰かということに絞られた。――僕たちのプライムサスペクト、スカルラッティ公爵が本当にそうなのか……」
 そこで、シャルルの声が消え入るように小さくなったのは、単に周囲の人目を気にしてのことではなさそうだ。はたして――
 「問題の事故を起こした連絡船の始発港・経由地を調べなくては!あるいは、被害者の女性たちの搭乗港を!」
 「……その通りだわ!そこで彼女たちは、犯人から目を付けられたわけだもの……たとえば、ポート・シルキーズとか――」
 シャルルが、頷いた。
 「犯人を特定するための重要な手掛かりだ」

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