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『天使の翼』第7章(43)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~

 翌朝、アクィレイアの冬がまた確実に一歩近付いてきたかのような冷たい風の吹く中、わたしとシャルルは、再び朝の勤めを終えたジェーンと会合した。ジェーンには、昨日別れ際に、吟遊詩人であるわたし達が歌えるような催しがないか、心当たりをあたるよう依頼してあった……慎重を期してスカルラッティの名は出さずにだが……
 場所は、昨日とは違う別のカフェ――聖堂をはさんで反対側に位置している――ジェーンの示した道順は、例によってきわめて的確で、わたし達は難なくそこに辿り着いた。昨日と違うカフェにしたのは、せっかくアクィレイアに来たのだから、いろんな所を見たほうが良いでしょ、というジェーンの薦めによるものだが――それと、今度のカフェは、アクィレイア風の素晴らしいシチューが味わえるという――、わたしとシャルルにとっては、不用意に顔を覚えられたくないという意味もあった。
 「何回も同じ顔を見ると、人は、関心と疑問を持ち始める」
 と、シャルルは言った。
 ほどなくして現れたジェーンは、くるぶしまで届く茶のロング・コートに、ミニスカート――その丈の短さに、わたしは、いきなりカウンター・パンチを食らった。……どう考えてもシャルルを意識した服装だ――それは、シャルルを見るときの彼女の笑みが、しっかりと物語っている。――女性が好ましい男性にだけ見せる笑み……
 ジェーンは、そのすらりとして程よく肉付きの良い足を、シャルルに見せ付けるように組んで座った。
 (やれやれ、これって教義違反よね……)
 こういう積極的な女性はシャルルの好みのタイプだとにらんでいるわたしは、全く不必要なことと心の奥底では分かっている筈なのに、そわそわとしてきた――
 (いけない。今はそんな場合ではないのよ――)
 「いい催し物があったわ」
 自意識過剰なわたしをよそに、ジェーンは、あくまで礼儀正しく、わたしとシャルルを等分に見ながら口を開いた。


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