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『天使の翼』第5章(83)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~

 「見てごらん」
 うながされて、振り返ると、まっすぐ伸びた洞窟の先――近代的なトンネルと見間違うほど広々として磨きこまれている――100標準メートル、いや、200標準メートル位だろうか、眩しいくらいに光り輝く出口が見えた。この星に着いてすぐ、わたし達は、土砂降りの雨の洗礼を受けたのだが、今、外界は、すがすがしいほどに晴れ上がっているに違いない。
 「洞窟の外は、すぐもう、レプゴウ男爵の城下町だそうだ」
 わたしの心の中に、晴れやかな思いが湧き上がってきた。幾多の難題を抱える今、それは、たとえ束の間のものであっても、貴重な心の表情だった。
 「いつまた、あの二人組みが現れるとも限らない。一刻も早く男爵にお目にかからないと」
 わたしは、頷いた。
 「ダイアンを下に降ろしたら、口実を作ってきっぱりと別れる、いいね?」
 「仕方ないことだわ」
 わたしは、自分に言い聞かせるように答えて、ハーネスを外しにかかった。
 シャルルは、無言でわたしの手元を見守り、ハーネスをワイヤーにぶら下げてから、悪魔の口腔を見上げ、見えないダイアンに向かって手を振った。
 待ち構えていたようにワイヤーが巻き上がっていく。……下から見上げる悪魔の口腔は、あらためて別世界のようだ。この数日の悪夢のような経験を象徴している……
 最初、ダイアンの下降は、何事もなく推移していた。おかしな話だが、ウインチは、誰か別の隊商にでも頼まない限り、1回しか使えない、自分たちでは回収できない……。それが分かっていたら、怪しげな機械の行商人から買ったりしなかったろう、などと、わたしは、くどくど考えていた。きっと、貪欲な廃品業者がすぐに持ち去るに――
 突然、洞窟内にけたたましいサイレンの音が鳴り響いた。岩壁に反響して、耳が痛いくらいだった。


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