フリースケジュールという働き方~自由と平等が生み出す生産性~

 この記事【出社は好きな日だけ エビ工場にパート殺到】に登場する『フリースケジュール』という仕組み、実にユニークです。記事を最後まで読み通すと、非常にうまくできたシステムである事が伝わってきて、痛快さすら覚えます。……と、その時はそれで終わったのですが、今日、空いた時間に日経電子版をネットサーフィンしていて、たまたま目に飛び込んできたこの記事を再読してみると、次第にある思いが強くなってくるのを感じたのです――「この『フリースケジュール』というシステム、何かもっと奥深いものを秘めているのではないか?」――。

 初めに、この驚きの『フリースケジュール』の仕組みを、記事から読み取れる範囲で整理してみます。

まず、『フリースケジュール』の根幹をなす基本の【就業ルール】は、記事によると――

【就業ルール】① 出勤日自由。② 出勤時間自由(出退社時間自由)。③ 出勤日時の事前確認なし。④ 休む事を会社に連絡不要。⑤ 長期休暇は何日でも可。⑥ 細分化された作業の内、嫌いな作業はやらなくて良い。⑦ 定期的に作業の好き嫌いを聞き取り、〇✖表を作業場に掲示。

そして、記事では、このように自由なルールを円滑に運用していくには、【人間関係への気配り】が不可欠だとされます。

【人間関係への気配り】① パート間に上下関係を作らないための細かなルール。② 作業指示は社員だけが出す。③ パート時給は、経験に関係なく一律設定。

つまり、パート間に上下関係も時給格差もない平等な状態を作り出してこそ、自由な働き方が可能となる、という事で、この点は、きわめて重要なポイントだと考えられます。

 お互い全く自由なルールの下で自由に勤務しているのに、それによって、時給の差や上下の差が出来てはおかしな事になります。ところが、人間関係というのは、放置すると必ず上下の関係が生まれてきます。そして、「お互い自由に働いているのに、なんで偉そうに……」という軋轢が生じてしまう。そのような事態になるのを仕組みを作って未然に防いで、お互いがお互い自由に働いている事を理解し合い、平等であることの大切さを認識する。平等の前提を崩してしまっては、自由は保てない、というある意味普遍的な認識なのです。

次に押さえておかなくてはならない点は、この自由な【就業ルール】でも【工場が回っていく条件】です。決してあらゆる事業所で実現可能なシステムではなさそうです。

【工場が回るための条件】① パートの多能工化を確立し、社員を含め3人いれば工場が回る。② 全ての作業をこなせる社員が二人いる。③ 工場のコアとなる社員が必ず二人出勤するから、パートが最低1人出勤すれば工場は回る(実績として1回しか起きていないが、出勤パートがゼロの時は、工場は休む)。④ 賞味期限などの制限が少ない冷凍食品を扱っており、3カ月分の在庫を持っているので、一日単位で細かく製造量を調整する必要性が小さい。

④のこの会社にもともと備わっている条件は、決定的ですが、①~③の条件、多能工化が達成できたからこそ、『フリースケジュール』でも工場が回るようになっているのです。

 このように、『フリースケジュール』のシステムにあって、自由な【就業ルール】でも事業が回っていくのは、【人間関係への気配り】による平等の観念の確立と、多能工化の確立が成し遂げられているからでした。

 ▶フリースケジュール・システム=自由度の高い就業ルール+平等の精神+多能工化

 『フリースケジュール・システム』は、自由と平等、そして、そこで働く者一人ひとりのスキルアップ(多能工化)によって成り立っているのです。

このような『フリースケジュール・システム』によってもたらされた成果を分析すると、さらにいろいろなことが見えてきそうです。

【フリースケジュール・システムの成果】① 意外なことに、作業の好き嫌いは個人ごとに分散し、極端に集中しない。② 当然、日単位では出勤にムラがあるが、週単位・月単位のスパンで見ると、必要な労働力はほぼ確保できる。③ 離職率が低下し、時間の経過とともにベテランが増え、得意な作業に集中することで生産性が向上する。④ パートのレベルが上がることで、記事にもあるように、自由にかまけてだらけたりする者はおらず、周囲の状況を各人が判断して、人が足りない作業に回るようになる。⑤ 生産性の向上により総作業時間が削減され、人件費が大幅にダウンする。⑥ 決して高水準な時給でなくとも、『フリースケジュール』、自由な出勤・作業という見返りは大きく、求人に応募が殺到する。

これらの成果から分かる事は、まず、①②より、人間の行動は、自由を委ねられると自然とばらけて分散し、集中しない、つまり、ある程度は平準化されるという事です。自由にしたら楽な所、有利な所に集中すると思いがちですが、意外にもそうはならない。それどころか、自由に働けるという充実感がモチベーションを上げて、④のような前向きな仕事へとつながっています。このような現象の起きることが、『フリースケジュール・システム』を強固なものにしていることは間違いありません。

 ③⑤は、この『フリースケジュール』がいかにパートさんにとってメリットのあるものであるか、そして、その結果、正のスパイラルが発生して生産性の向上が達成されることを表しています。『フリースケジュール』という契約が、パートと会社の双方にWin-Winの関係をもたらしているのです。

多くは主婦であるパートさんにとって、仕事とそれ以外の家庭、日常、家事や子育ては、仕事が従で、家庭が主です。『フリースケジュール』は、主である家庭を犠牲にすることなく収入を得られる、理想的な『働き方』を体現しているのです。それ故、⑥のように多少低い時給水準は問題となりません。『大切なものを犠牲にすることなく働く』というのは、人間本来の働き方であったはずです。社会的な制約がなければ誰しもそのような働き方をしたいと思うでしょう。

 ▶『フリースケジュール』によってパートさんが得るもの(満足)

  =時給(多少低い水準だが)+プライベートを犠牲にしない働き方

  ⇒ポジティブな心理状態⇒モチベーションの向上

  =心理資本が充実して、最終的な企業業績の向上へと繋がる

 ここまで考察してきて思い出したのは、6/5のやはり働き方探検隊の記事【出社は不要、デキる会社は縛らない】です。このリモートワークの事例でも、キーワードは自由と平等でした。自由と平等を積極的に取り入れた働き方が、働き手のポジティブな心理状態をを生み出して、生産性を向上させ、働き手と企業の関係をWin-Winへと導きます。私には、これら『完全リモートワーク』や『フリースケジュール』の事例は、それこそハーバードビジネススクールのケーススタディになってもおかしくない内容に思えたのでした。

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO31431010W8A600C1X11000/

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO31358100U8A600C1X11000/

https://comemo.io/entries/8082

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