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『天使の翼』第11章(76)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~

 身分証の本体は、個人を識別するのに必要な範囲のDNA情報である。帝国市民であれば、その原体は、帝国内務省に保管されており、万が一携帯端末を紛失して、本人がそのことに気付かずにいても、そのデータは、生体的本人識別機能によって端末から自動消去されるし、DNA検査さえ受ければ、再発行できる。
 細かく言うと、CIDを管掌しているのは、内務省の外局である帝国通信メディア庁IACM(アイアコム)で、その監督下にあるのが――政府が発行済み株式の90%を保有している――GTC(ギャラクシーテレコム)という訳だ。通信業務が、人間一人ひとりの身分保証を行うことになるとは、太古の人々に想像し得たろうか?
 わたしとシャルルのCIDは、現在、それぞれデイテとシャルルの名で登録されており、わたしのCIDは、真正そのもの、シャルルのは、帝国自由民・吟遊詩人となっているから、偽造な訳だけど、もちろん、100%完全な偽造――本庁の原本も改竄されている――なのだ。何とシャルルの端末には信じられないようなアプリが搭載されており、いくらでもCIDの書き換えができて、しかも、それに応じて本庁の原本まで更新されてしまう……

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