『天使の翼』第5章(81)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~
すぐに肉眼では見えなくなる。
わたしとダイアンは、交互に暗視スコープを覗きながら、固唾を飲んでシャルルの地底到着を見守った。
……長く長く感じられたけれど、実際には10標準分ほどで、シャルルは、地底に着地し、合図を送ってよこした。ダイアンが、すかさずリモート・パネルのボタンをオフにする。
暗視スコープで見ていると、シャルルは、周囲の様子を探るのか、さかんに四方を見やりながら、視界から消えた。――ほどなく戻ったシャルルが、大きく腕を振り回した――来い、という合図だ。
わたしは、ダイアンと無言で視線を交わした。
ダイアンは、頷いて、パネルの巻き取りボタンを押した。
――いよいよ、わたしの番だ。
どきどき、どきどき……。わたしの体は、まるで心臓の鼓動のための共鳴箱だ。
本当なら、一つ一つ意識して確実に固定していかなくてはならないはずのハーネスの装着を、わたしは、ほとんど無意識にやってしまい、何度もはじめに戻ってはやり直す羽目になった。それでも、ハーネスはウインチに2個付属していたので、実際には、ワイヤーを巻き取る待ち時間の間に終わっていたから、ロスタイムがあった訳ではない――
「もう、デイテったら、蒼い顔して、あなたらしくないわよ」
わたしは、怖がっているのに無理して笑っている小さな女の子のような顔を何とか作った。
「さようなら……」
意味不明の呟きをダイアンに残して、わたしは、ワイヤーに吊るした自分の体を悪魔の口腔へと押し出した。
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