IoTのプラットフォームとモジュール

 この記事【スマホを変えたグーグル、次の狙いは「つながる家電」】、スマート家電に関するリポートだと思い軽い気持ちで読み始めたのですが、次のくだりまで来て視線が釘付けとなりました。

 「グーグルは今回のOSを出すにあたって米クアルコムの高性能半導体やメモリー、カメラなどをひとつにまとめた開発者向けのツールを発売した。カメラと画面を使った画像認識などグーグルの技術を使った「モノ」の試作品を簡単につくることができるため、アイデアを形にしやすくなっている。」

 実は、この記事、第4次産業革命の時代のグーグルの経済圏が、製造業の世界にまで深く浸透してきていることを思い起こさせてくれる内容だったのです。

 そもそも、第4次産業革命とは、IoTとそれを制御するAIを活用することによって、コモディティ化するモノにサービスをセットして供給する、『コトづくり』が産業のあり方となる時代、製造業のサービス化が進行する時代です。つまり、第4次産業革命の時代のモノの構成要素を簡単に図式化すると次のようになると考えられます。

  第4次産業革命の時代のモノ=メカニクス+エレクトロニクス+ソフト+IoT+AI

この図式に、グーグルのビジネスモデルを重ね合わせると、いかにグーグルのエコシステムが浸透してきているかが良く分かります。

   モノ=メカニクス+エレクトロニクス  +ソフト        +IoT     +AI              ⇓       ⇓          ⇓     ⇓グーグルのエコシステム=開発者向けツール+アンドロイド・シングス+AIスピーカー+音声AI              =IoTモジュール+IoTプラットフォーム+IoTインターフェース+IoTデータ               ⇓       ⇓                 ⇓   外部企業・・・・・・・・・・IoTデバイス・・・・・・・アプリ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・広告

つまり、グーグルは、自身のIoTエコシステムのコア要素である『アンドロイド・シングス』+『AIスピーカー』+『音声AI』でもって、IoTのOS(基本ソフト)+ネットワーク化するIoTデバイスのヒューマンインタフェース+IoTデータという『モノの頭脳』部分を押さえた上で、『モノづくり』の従来からの基幹部分であるエレキ、『モノの身体』部分にまで進出してきている、と捉えることができます。

外部企業にとって、このグーグルのエコシステムと接続することは、開発のスピード感とリターンの両面から魅力的であることは間違いないと思われます。そして、このエコシステムは、採用企業が増え、エコシステムが巨大化すれば、AIの精度も上がり、リターンも大きくなるというWin-Winによる加速構造を内蔵しているといえます。

グーグルのエコシステムは、水平的には家電、スマートホーム、ロボット、自動車、MaaS、スマートシティとどんどん拡大していくと考えられ、そこへきてさらに、垂直方向に従来型の製造業のお家芸であるエレキの要素にまで浸透してきた訳です。

私は、記事にある『開発者向けのツール』は、一種のモジュールであると考えます。グーグルという企業が、部品メーカーとして行動し、IoTデバイスを簡単に開発できるIoTモジュールを完成品メーカーに売り出した、という捉え方が出来そうです。記事にもあるように、この一見何気ない静かな攻勢には、「製造業のあり方を揺さぶる」重大な意味が秘められていそうです。

そこで、一般論として、IT企業が『開発者向けのツール』=IoTモジュールを発売することの意味を整理してみることにしました。

①【IoTモジュール化とイノベーション】 IoTデバイス開発(試作品づくり)のハードルを下げるIoTモジュールは、中小を含め多くの野心的な企業の参入を促し、既存メーカーを巻き込んだ競争が激化する。技術よりも、UX(ユーザー・エクスペリエンス)をつかんだアイデアで勝負が決する。②【IoTモジュール化とエコシステム】 IoTモジュールには、開発工数を減らし開発のスピードを加速する効果があり、自己開発を断念し競争に遅れまいとする企業が殺到するので、結果、IT企業のエコシステムは肥大化していく。IoTモジュールがあるのと、ないのとでは、エコシステムの成長するスピードに大きな差が生じるだろう。その意味で、IoTモジュールの販売は、実に卓抜なアイデアと言える。 ③【IoTモジュール化とメーカー】 IoTモジュールが、単なる開発用の試作品づくりのためのモジュールから、実際の完成品に組み込まれるモジュールに進化し量産された場合、完成品メーカーは、開発工数のみならず、生産投資、部品購買コストなども節約できメリットが大きい反面、製品の頭脳部分は、完全にIT企業の支配下に置かれる。④【IoTモジュール化とデファクトスタンダード】 当然のことながら、セキュアで利便性にすぐれたIoTモジュールは、IoTにおけるセンシング・通信方式・セキュリティー方式の業界標準になりうる。⑤【IoTモジュール化とパラダイムシフト】 IoTモジュール化の進展は、IT企業をピラミッドの頂点とする産業構造のモジュール化、モノづくりのパラダイムシフトを起こすかも知れない。IT企業によるSNSデータの寡占の構造が、IoTデータにおいても繰り返されるかも知れない。⑥【IoTモジュール化とアドバンテージ】 そうは言っても、真にハイクオリティなIoTモジュールを開発できるアドバンテージは、擦り合わせ設計の匠であり、センシングをはじめ数々の先進技術を有する日本企業にあるとも考えられる。IoT時代の土俵は、AIの精度やデータ量だけではない。IoTに欠かせない先端技術を更新し続ける限り、悲観する必要は全くない。

 

 このように見てくると、IT企業の構築するIoTのエコシステムは、強大な帝国で決して油断はできませんが、IT企業自体が乱立しており、また、入り込める市場、ニッチはいくらでもあると前向きに考えるべきだと思いました。大事なことは、知らないうちに加速する変化に気付いて、その本質を自分なりに見極める努力をすることではないでしょうか。

                 

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO30883000T20C18A5000000/

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?