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『天使の翼』第7章(7)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~

 ようやく聖堂前の広場にエアカーが着地した時、わたしもシャルルも、その巨大さに息を呑んで、しばし車から降りることを忘れていた。聖堂の身廊の上を覆うドームは、ここから見上げると、ほとんど空を隠すほどの圧迫感がある――銀河標準で300メートルの高さはあるのではないか?――ドームの直径そのものも250メートルはありそうだ……
 「大司教旗が掲揚されている」
 わたしは、シャルルの声に我に返った。
 白地に赤いふくろうの文様――それは、スカルラッティ公の紋章で、その上に十字の描かれた旗――すなわちアクィレイア大司教旗だ。
 「行こう」
 促されるままに、わたしは、エアタクシーを降りた。
 一陣の風が――それは、高層建築特有の乱気流だったかもしれない――、わたしの黒のコートをはためかせた。
 思わず身震いしたわたしの肩を、シャルルが優しく抱いてくれた。彼の体のぬくもりと柔らかい感触がじかに伝わってくる。彼の横顔を見ると、シャルルは、およそ複雑な表情で、聖堂のナルテックス(玄関廊)前に掲揚された大司教旗を見上げていた。彼がわたしの肩に腕を回した仕種は、ごく自然な、無意識の行為だった……
 「アクィレイアの冬は、もうすぐそこまで来ている……」
 言いながら、わたしは、自分の体の震えが、寒さだけによるのではないことを意識した。
 それは、シャルルにも分かっていた――
 「大丈夫だよ、デイテ。あの男女の悪の手下が仮に僕らの後を追うことができたとしても、すぐではない。まだ時間的なリードは十分にある……アクィレイアに来るのに方向を変えて四ヵ所も経由したから、そう簡単に調べはつかない――」
 一瞬、わたしを安心させるための楽観論かとも思ったが、わたしは、素直に頷いた。
 「――第一、ショート・カットの君は、全く別人に見える!」
 シャルルは、あのとてもキュートな笑みを浮かべて、わたしの頬を突こうとした。
 「こら!」
 わたしは、優しくシャルルの胸元をついた。せつな、意外とたくましかった彼の上半身を思い出す……
 シャルルは、長い髪をポニーテールにしていた――そうすると、隠れていた耳が出て、ちょっと別人のように見える……それにしても、ちょっと憎らしい。これでは、女性のファンがすぐにできて、放っておかないだろう……


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