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『天使の翼』第7章(35)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~

 当面、考えるべきことは二つある――
 一つは、『確実な証拠』という意味で、今回の犯行に使われている白い封書が、過去に公爵家の公用に使われていたものと一致しないか、そして、それが、最近発注されていないか、どうやって確認すればいいのだろう?
 ――鍵は、政庁の『消耗備品課』だ……消耗備品課の業務用コンピューターのファイルを開ければ、御用達の文具商などすぐに分かるだろうし、そもそも、文具商に直接当たらなくとも、白い封書に関する情報は得られるはずだ……
 まず、今は季節柄年度の切り替え時期かも知れず、だとすれば、消耗備品課の臨時スタッフとして紛れ込んで――
 「ハッキングしてしまおう」
 シャルルがあっさりと言ってのけた。
 「――事件の重大性からいって、十分に副長官補兼特命査察官たる僕の裁量の範囲だよ」
 わたしは、事の合法性ではなく、シャルルのコンピューターを操る技量の方に感銘を受けていたので、シャルルの言葉には誤解があった……
 「ちなみに、聖薬が違法な目的のために使用された場合、それがどのような犯罪であっても、聖薬三庁の捜査案件となりうる」
 つまり、連続吟遊詩人誘拐事件は、恒星間にまたがった事件で、当然その交通手段――ワープ航法――に付随して聖薬が使用されているから、純然たる聖薬法上の捜査対象なのである――職権乱用などには当たらない。

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