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『天使の翼』第7章(13)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~

 「ごめんなさい!変なことを言ってしまったわ……」
 「そんなことはない――」
 シャルルが、いつになく強い口調で言った。
 「――人の心の内面を完全に遮断して、外面に現れないようにすることなんて、できないと思う。――人間の表情というのは、そのつど、そのたびに意図して作られるものではなく、自然と表に出てくるものだからです。心の動きは、自動的に身体的表現となって表れる。心の動きは、手を動かすとか、足を動かすという脳の指令と全く同じ、表情を動かす指令なのだと考えれば分かり易い。だから、表情を隠すには、隠そうという強い意志があって、常に自分の心の動きをリサーチして、自然と出てくる表情を、別の表情へと置き換え続けなくてはならない。……少しでも気が緩むと、本当の心の内が、表情となって外に出てしまう。あなたが言う通り、心を研ぎ澄まして観察していれば、必ずその人の本性が見えてくると思うのです……問題は、顔の表情一つから複雑な内面を翻訳するのが非常に難しいこと。そして、何らかの神経的あるいは精神的な障害によって、表情がそもそもない、という例外です」
 シャルルの言葉は、観念的に、一つの理論を展開したものだったけれど、とても分かり易かった。シャルルらしく、理路整然と問題の根っこの部分から説き起こし、しかも、最後に、理論の木にあるいじけた部分や枯れた部分、問題・例外までも包含している。……『例外』の部分は、もちろん、公爵のことを念頭においていた。
 シスターのジェーンは、いつの間にか、羞恥心の消えた素の表情になって、シャルルの顔を食い入るように見ていた。……わたし達のような者に急に話し掛けられて一瞬戸惑ったものの、もともとそれほどナイーブな性格ではなかったのかも知れない。シャルルはシャルルで、どんな女性が相手でも違和感もなく接していけるみたい……油断もすきもないわ!……いけない、くだらないことは考えないようにって誓ったばかりなのに……


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