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『天使の翼』第6章(33)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~

 「殿下」
 そこへ、マリピエーロ宮内長官が、つと歩み寄った。
 「どうやら準備が整ったようです。お二人は、いったん楽屋に引き上げられて、改めて舞台に登場願います」
 ちらりと舞台の方を見ると、今は緞帳の下りたそれは、典型的な宮廷劇場――一段高くなり、花道とエレベーターを備えている……
 わたしは、とっさの判断で、シャルルと二人エレベーターで舞台中央に登場するのが効果的と見た。――思わせぶりに佇立するわたしと、その傍らで椅子についてギターを構えるシャルル……。大道具も小道具もなし。わたし達二人の音楽と個性で、観客の心を虜にするのだ。
 シャルルと二人舞台の下に回ったわたしは、エレベーターに乗りながら、束の間、祖母のことを思った。孫のわたしにとってさえ、謎めいた女性だった。そして、その謎めいた所は、決して、迷信や錬金術の類ではなく、あくまで祖母流に、物事の真実を指し示していた……わたしの顔に、自然と、いつものやわらかい笑み――歌う時いつも浮かぶ笑みが浮かび上がった。
 ふと見ると、傍らのシャルルが、うっとりとくい入るようにわたしの顔を見ていた。
 (だめよ、シャルル。あなたは、今から演じる側の立場なんだから)
 わたしは、シャルルの視線を捉え、頷きかけた。
 シャルルは、はっと我に返り、にっこりと頷き返してきた。
 わたしは、暗い隅の方にいる舞台装置係りに手を上げて合図した。
 エレベーターが、スルスルと迫り上がっていく。


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