人口減少社会の救世主となるAI

 この2本の記事「暗黙知、デジタルで見える化」と「世界最大最速の3Dプリンター・豪企業が開発」を読んで、日経電子版の過去記事なども思い浮かべながら、あれこれ思いを巡らしていた時、あることに気付きました。AIのもたらす様々な効果が、人口減少社会への課題解決という一点で結びついたのです。AIが生産現場にもたらすファクトリーオートメーションと、AIが設計現場にもたらすコンピュテーショナルデザインという2大潮流が、ともに人口減少社会への解となりうる力を秘めていると思えてきました。

【1】AIによる暗黙知デジタル化の効果

今、生産現場では、人間の持つ技能、匠の技を、データベース化する動きが進んでいます。今まで技能者の経験・勘として蓄えられていた暗黙知、見えないデータを、IoTによって計測、AIによって分析して見える化するのです。IoTにおけるセンサーの計測精度の向上、それがもたらす需要の拡大によるセンサーの生産費用の低下、将来的には、IoTにおける通信の5Gによる高速・大容量化などが、今まで計測できなかったものの数値化を可能にしていきます。AIの力を借りて、人間の技能をデータとして蓄えられるようになった事で、私は、少なくとも5つの大きな効果がもたらされ、そのいずれもが、人口減少社会の課題への解となると考えます。

①生産の自動化・・・人間の技能データをロボットの動作に応用するなどして、生産現場の自動化が進む。人件費の削減という側面が強調されがちだが、本質的には、少ない人間で工場を運用できるようになるということ。②工場のリショアリング(国内回帰)・・・生産の自動化が進めば、安い人件費を求めて海外に出ていく必要はなくなる。人口が減少して、よりフレキシブルに細かく顧客の要望に対応しなくてはならない状況では、国内に工場がある優位性は大きい。③工場の地産地消化・・・一方、工場の立地選定に当たってその土地の人件費を考慮しなくて良いという事は、工場を消費地の近くに建設することを可能にする。それによって、製品の輸送距離は大幅に短縮され、ドライバー不足への対応となる。④地方企業・中小企業のオープンイノベーション促進・・・今まで見えなかった企業の独自技術、伝統製法がデータベース化されることによって、企業間のオープンイノベーションが活性化する。企業は、予め企業秘密の伏せられた独自技術の概要に接することで、その独自技術を自社に導入した場合の効果を予測できるようになる。技術と技術のマッシュアップでイノベーションが生まれる。特に人口減少による市場縮小が進む地方企業・中小企業にとっては、思いもよらなかった企業とのオープンイノベーションによって、新商品の開発、新たな販路の開拓といった活路が開かれる。⑤事業承継・・・人口減少社会に忍び寄る大廃業時代に、データベース化された独自技術の情報がある事は、事業承継を助け、ひいては貴重な伝統技術のリソースを守ることにつながる。

【2】AIによるコンピュテーショナルデザインの効果

設計(デザイン)の創造面をAIに委ねるコンピュテーショナルデザインは、下記のように、仕様をAIに与えて、設計案を考えさせるものです。

【仕様(コンセプト)】・・・相反する複数の要件が含まれる。     ⇓ 【AI】・・・何通りもの検討案を生成し、シミュレーションして最適案を提示。     ⇓                             ⇑ 【設計者(デザイナー)】最適案を評価して設計案として【採用】するか【再検討】(洗練する事)を指示。                                          ⇓                                       【設計案】 (註)シミュレーション=仕様通りの機能・性能を得られるか検証すること。

最大の特徴は、人手によるのとは比較にならない短時間で、顧客の要望に応える、多様かつ斬新なアイデアをいくつも生成できる事です。

その事が何故、人口減少社会と関わってくるのか?――コンピュテーショナルデザインは、ユーザーの要求に細やかに対応してカスタマイズ化された製品をデザインできます。人口減少社会の製造業が、コモディティ化を回避して、業績を向上させるには、カスタマイズ化は欠くことのできない施策だと考えられるのです。その意味で、AIが可能にするユーザー参加型のコ・クリエーション(価値共創)のビジネスモデルは、人口減少社会の主流になるかも知れません。未来学者アルビン・トフラーが『第三の波』で予見したプロシューマー(生産者+消費者)の時代がやってくるのです。そして、3Dプリンティングの技術は、カスタマイズ化される生産に最適の技術と言えます。

 このように、AIが生産現場と設計現場にもたらす変化は、日本が人口減少社会を乗り切るのに、大きな助けとなるのではないでしょうか。そのためには、生産現場の自動化を改善し続けるために、人間が自分たちの持つ技能を磨き伝承すること、そして、設計者が自身の設計センスをアルゴリズムに落とし込み、AIと共創する作業が欠かせません。AIが救世主となるには、まず、人間がAIと手をたずさえる必要があります。

https://www.nikkei.com/article/DGKKZO30609260W8A510C1TCP000/

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO30614510X10C18A5000000/

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