『天使の翼』第11章(84)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~
「ハイ・アンコーナまで行かれるのですか?」
「いや――」
シャルルが引き継いだ。
「――その先の山岳地帯を旅しようと思って……」
「それはまた」
「ケインという有名な吟遊詩人に会ってみたいと」
指揮官の瞳に動きがあった。
「――それは無理だな」
その言葉がわたしの心に過剰反応を起こさせたのか、わたしは、身震いした。
「ケインは、パトロンと一緒に、今頃はアクィレイアに行ってるはずだ」
わたしは、シャルルと顔を見合わせた。
「パトロン?……アクィレイア……」
「外の世界から来たお二人は、知らなくても不思議はない――そうですよね、教授?ローラ・マイヤーさん」
「――あら、あなたみたいなSSIPのエリート指揮官が、宇宙考古学に興味がおありだなんて――」
一瞬の間をおいて、ローラが答えた。
「じゃあ、これは必要ないわね」
そう言って、ローラは、二つ折りタイプの端末をパチリと閉じた。その瞳は、じっと指揮官の目を捉えて離さない。わたし達同様、彼女も驚いたはずなのだが、さすがに肝が据わっていた――それとも、それ位有名人ってことかしら――
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