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『天使の翼』第7章(14)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~

 それにしても、初対面同士の間で、いきなり、精神的・哲学的な話が始まるなんて、滅多にあることではない。わたしは、皇帝の言葉を思い出していた――「彼は、アケルナル帝国大学の哲学科を五年前に首席で卒業した」。そして、シスターのジェーンも、只者ではない――単にまだ若くて、実績と地位が伴っていないだけだ……
 わたしたち三人の間にどれだけ沈黙の帳が下りていたろうか、シスターのジェーンが最初に我に返った。
 「私の思っていたことを見事に言葉にしてくれたわ……チャールズ……」
 ジェーンは、ちょっぴり赤面しながら、最初のようなか細い声で『チャールズ』と付け加えた。
 シャルルが肩をすくめる。
 「わたくし、給費を得て、アクィレイア帝大の史学科に通っています」
 ……なるほど、ジェーンは、修道女は修道女でも、学問の道を歩む修学生……それとも、給費の見返りに――と言っては身もふたもないけれど――限られた期間神への奉仕をしているのだろう……
 「私、学問の道を志すようになってから、いくつもの課題やら何やらで、たくさんのレポートを書くようになって分かったんですが、真理――少なくとも自分が真理だと思うものを、理路整然と分かり易く記述する――文章化することって、とても大切なことだと……」
 シャルルが、笑顔で頷いた。
 「その通りだ。聞いてみて、読んでみて分かり易いということは、理論の展開に、飛躍や瑕疵がないということ……少なくとも目安にはなる」
 そこで、わたしの驚いたことに、シャルルとジェーンが、どちらからともなく手を差し出しあって握手を交わした。交わした手の上に、身廊の高いドームに開いた天窓から、一筋の光が射しおろす……


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