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『天使の翼』第4章(21)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~

 「たいしたもんじゃ、デイテ。昨夜一度の公演で、翌朝すでに、五通……いや、三通の招待状とは……しかも、どれも使者が持参してきおった」
 わたしは、しばし三通の個性的な封書と睨めっこをした。……選びようがない……
 老支配人も笑みを見せて――
 「どうするね。一つだけヒントを言うと、そのガラスでできた招待状は、クリスタル城の公式便箋――マウリキス伯爵からのものじゃ」
 ……もちろん、中身を全部改めてから選ぶ手もある――
 わたしは、心を決めた。こういう時、吟遊詩人なら誰でもすることをやるまでだ。
 「支配人、わたしが目を瞑っている間に、その三つの封書の並び順を変えてもらえませんか」
 「分かった」
 どうやら、老人は、前にもこういった経験があるようだ。
 わたしは、目を瞑った。
 老人が、三通の封書……というか、クリスタルと岩と紙を、その優しくふっくらとした指で動かすひそやかな音がする。
 「いいぞ」
 わたしは、三通の封書の上に右手をかざして、ゆっくり左右に動かした――地球型カタツムリが這うようにゆっくりと……
 最初は何も感じなかったが、しばらくすると、熱の微妙な違いや、気のせいかも知れないが、手のひらを押したり引いたりする力が感じられるようになる……
 わたしは、なかば夢見心地で右手を左右にしていたが、ふと微妙な力の変化を感じて、手の動きを止めた……
 わたしは、あまり深く考えず、ぱっと目を見開いた。
 わたしの右手の下には、赤黒い光沢を放つ岩でできた封書があった。
 わたしは、右手をおろして岩を摑んだ。
 ――すごく冷たい!
 わたしは、思わず老支配人の顔を見た。
 老人は、頷いて――
 「それは、ここポート・シルキーズを去ること900光年のかなた、レプゴウ男爵家からの招待状じゃ」


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