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『天使の翼』第7章(16)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~

 ジェーンは、真っ赤な顔で、こくりと頷いた。――その気持ちは分からないではない。女性には、誰でも、いくつになっても、王子様願望がある。そこへ、青天の霹靂のごとく、夢の中から飛び出してきたような男性が現れて、しかも、その場限りでお別れではなく、もう一度会える約束ができたとしたら……ジェーンにとって、今日という日は、予想だにしなかった、奇跡の一日となったのだ。
 複雑な心境だけれど、シャルルがそれと意識して自分の魅力を武器に使っているわけではないことは、わたしにも分かる。あくまで、人を引き付けるシャルルの力が遺憾なく発揮された、ということだ。
 わたし達三人は、徒歩で十五分(この星の時制で。アケルナルとほとんど変わらない)程の、聖堂からは少し離れたカフェで落ち合うことになった。ジェーンが、聖堂の周辺を嫌がったのだ。
 いったんジェーンと別れて二人きりになった後、ようやく人通りの出てきた街並みを歩きながら、わたしは、口を閉ざして押し黙っていた。シャルルが不審に思い出した頃を見計らって、わたしは、ぱっとシャルルの前に飛び出した。
 慌てて立ち止まったシャルルとわたしは、ほとんどぶつかりそうな状態で、ヒールの高いブーツをはいていたわたしは、シャルルより視線の位置が高かった。
 「あの娘に魅力を感じたの、シャルル」
 「何を言ってるんだい、デイテ!」
 シャルルは、驚いて目を丸くした。
 わたしは、なおもシャルルの目をじっと見据えてから、いきなりぎゅっと彼を抱きしめて、思いっきり濃厚な口付けをした!
 こんな行動を取る自分を馬鹿みたいと思いながらも、気持ちのままに振舞うことに体の芯から溢れ出すような解放感を感じていた。
 「わたしのシャルル。わたしだけのシャルル、誰にも渡さない……」
 馬鹿なことを言う。ごく自然な心の発露であったから、シャルルに情緒不安定な女だと思われる恐れは感じなかった――譬えが変かも知れないが、ペットが、何のわだかまりもなく大好きな飼い主にじゃれつくみたいなものだ……
 通りかかった若者達から、冷やかしの口笛を吹かれても、わたしは、しばらくそのまま彼を抱き続けた。


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