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『天使の翼』第11章(58)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~

 男のシャルルは当然として、わたしも、この『蛇型車両』には興味津々で、自ずと、車体の前に回って、先頭部のフェースを見たくなった。
 「……!」
 それは、思わず歓声を上げたくなるような、半ば期待していた通りの、アニマル・フェースだった。――ただ、それは、蛇というより肉食動物のそれを思わせる精悍なマスクで、操縦席のV字型の窓が鋭い眼光を、鋭角的になったノーズが鋭い牙を宿しているように見える……。透き通った駅舎の天蓋から降り注ぐやわらかい朝の光の中、明かりの消えた前照燈は、眠れる巨獣の火を噴く鼻孔さながら……
 と、つかの間当面の問題を忘却して子供のように嬉々としていたわたしとシャルルの上に、ローラの声が降ってきた。
 「あなた達さえ良ければ、大学の方に連絡を入れておきたいんだけど……」
 途端にわたしは緊張した。ローラには、ラプラス脱出劇の間に取り戻した携帯端末を返してある……。彼女が自分の本来住んでいる世界と連絡を取るのは、当然の要求だが、フランク長官とのつながりで、危険を伴うのでは……
 しかし、シャルルは、平然としていた。
 「もちろんだとも」
 「……あなた達の居る所で話すわ」
 シャルルは、一蹴した。
 「僕は、立ち聞きなんてしないよ」
 ローラは、何故か赤面している……彼女を一人の女性として信頼していると、明白な形で示したからだろうか……

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