『天使の翼』第4章(17)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~
わたしは、眺めの良い部屋に戻って、窓の前のソファーにくつろいでいる。
今日二度目のシャワーを浴び、すっかりリラックスして、余計なこと、特に『天使の翼』のことは意識の外に追いやろうとしていたと思う。大切な使命だが、そのことばかりを考えていては、何もしないうちに気疲れで倒れてしまうだろう……
今は、ゆっくり、よく冷えたお酒を飲みながら、ぼんやりと窓の外の夜景を眺めて――
その時、ドアがノックされた。
わたしは、ドキッとして、もう今夜は誰の相手もしないわよと思い、次の瞬間、「シャルルかしら」と思い直して、立ちあがった。
ドアの前に行き、ドア面をビュー・モードに切り替える。
瞬間おいて、ドアが透明になり、廊下に立つ一人の女性の姿が浮かび上がった。
(誰だろう)
シンプルだが高価な、シルクのノースリーブ――
薄化粧の真面目そうな、どちらかといえばかわいらしい顔立ち――
髪だけは、ゴージャスなブロンドだ……
…………
「クリプトン!」
わたしは、思わず声に出していた。
間違いない。メイクを落としたクリプトンだ。目の輝きが同じだもの……
わたしは、ドアのオープン・ボタンを押した。
クリプトンは、軽く笑みを見せると、すぐまた沈んだ表情に戻って、わたしの脇をすり抜け、さっさと部屋の奥へと入って行った。
わたしは、ドアを閉めると、呆然として彼女の方を振り返った。
彼女は、つい今しがたまでわたしのくつろいでいたソファーの傍らに立って、わたしの方に背中を向け、窓の外の夜景に見入っているように見えた……
一人でわたしの所に来るなんて、すっかり彼女のお株を奪ってしまったわたしに対して、十代の少女らしい仕返しをたくらんでいるのかしら……とにかく、わたしには、バージニア・クリプトンの事が何も分かっていなかった。
いつまで続くかと思われた沈黙は、わたしの心の内を読んだかのようなクリプトンの一言で破られた。
「わたし、本当は、二十二なのよ」
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