一に読解, 二に読解, 三, 四は遊びで, 五に算数『AIに負けない子どもを育てる』
『AI vs 教科書が読めない子どもたち』の続編、『AIに負けない子どもを育てる』(新井紀子著)を読みました。
個人的に前作がすごく良かったので、期待が高かったのですが...
第一印象は、著者が開発した読解力を計測するテストの解説がかなりの割合を占めていて、少し残念。
とは言え、示唆に富む内容であることに変わりはありません。
著者が、前作でも本書でも力を入れて主張していることをまとめてみます。
AIが最も苦手なこと
それが文の読解力だというのです。
AIは本当の意味で文を理解することができないといいます。
理解しているように見えるのは、文の中にある単語を集めて、それを統計的にこんな意味になる可能性が高い、としているだけだそうです。
キーワード検索というそうです。
人間でいう斜め読みに似ているような。
そんな読み方なので、AIが文を正しく理解する精度には限界があるとのこと。
恐ろしくて、AIにメールの返信をお願いすることも、契約書に従って図書を作ってもらうこともできません。
だからこそ、この部分は絶対にAIではなく人間がやるしかない。
人間に求められているのは読解力なのです。
教科書を読めない子どもたち
AIが苦手とする読解力。
では人間はどれくらい文を読めるのか?と調べたところ、驚くべき事実がわかりました。
中高校生を調べたところ、教科書を正しく理解する読解力すらない子どもたちが半数以上いたというのです。
また、大人でも読解力が怪しい人がかなりの割合でいたのだとか。
読解力がなぜ大切か
中高生を調べたところ、読解力が高いほど偏差値が高いという結果に。
これは国語だけでなく、理科や数学、社会も同様でした。
読解力をつけると、教科書を正しく読めるだけでなく、学習の効率も上がり、テストの問題文も正しく読めるようになるそう。
逆に読解力が低いと、文を意味として理解することができないため、単語の暗記に頼るようになってしまうそうです。
これでは成績は頭打ちになってしまいます。
社会人になったら読解力はもっと大切ですね。
メールや契約書の内容を正しく理解せずに仕事をしていたら大変なことになってしまいます。
読解力をつけるには
気になる読解力の伸ばし方。
でも、本書で万能薬は示されていません。
著者は、読解力が低い理由は人それぞれなので万能薬は処方できない、と言います。
ただ、いくつかのヒントは挙げられていました。
1) 黒板をノートに纏めることは読解力のトレーニングになる
板書をノートに速く写すには、黒板に書かれた文をある程度覚えてノートに書く必要があります。これが読解力のトレーニングになるそうです。
でも、最近では授業時間を有効に使うために板書を少なくし、プリントで代用することが増えているのだとか。
大学では多くの教員が板書をせず、パワーポイントの資料を投影して授業を進めます。
生徒がノートに書く量が減ることで、読解力が伸びないという危惧を著者は持っています。
2) 穴埋め式のプリントやドリルは読解力の低下を招く
学校の教師はよく穴埋め式のプリントを配ります。
この方が子供たちはテスト勉強がしやすく、テストの点も上がるからだそうです。
しかし、これでは意味として理解するのではなく、単語として暗記することになります。
これが読解力の低下を招くだけでなく、学習の理解の妨げになっているのだと著者は警鐘を鳴らしています。
3) 保育園と学童が好ましい
著者は以下の理由で保育園と学童が結果的に読解力の向上につながると主張します。
a) ゼロ才から十分に母語のシャワーを浴びる機会の保証
b) インターネットから切り離されて、リアルな外部の世界と十分に接触する機会の保証
c) 歩いたり、走ったり、同年代の子どもと喧嘩をしたり、仲直りをしたりする十分な機会の保証
国語という授業の見直し
国語教師以外の教師からは、生徒の読解力の低さを知り、以下のような意見が出ているそうです。
「走れメロスで感動させる前に、ふつうの文章を正確に読めるようにしてほしい」
「国語の先生は、いい話で生徒を感動させることと、漢字や滅多に使わないような語彙を身に着けさせることが授業の成功だと思っている」
このような事情もあり、2022年の新学習指導要領では高校の国語に「論理国語」というものが追加されるそうです。
名作や古典を読むのではなく、読解力を鍛えるための教科です。
一に読解、二に読解、三、四は遊びで、五に算数
この言葉は、著者が前作『AI vs 教科書が読めない子どもたち』で残したものです。
識者によって、優先すべき教科は異なります。
投資家のジム・ロジャースは歴史、哲学、数学だそうです。
でも、歴史、哲学、数学、そのどれもに読解力が必要ですから、やはり最初は読解力なんだな、と思いました。
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