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ペットの体調のホンヤクコンニャクを目指せ。予防獣医療が劇的に進むかもしれないわけ

ペットの首輪は、何千年変わらないでいるのだろう。昔、例のあの人が「電話を再発明した」と衝撃的な言葉を使ったが、今まさに、首輪は再発明されたかもしれない。

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Catlog(キャトログ)は、言うなれば次世代の猫の首輪だ。

発売開始からちょうど1年ほどの若いプロダクトで、「バイオロギング」という主に野生動物をモニタリングするための技術を転用している。首輪の動きで猫の行動状態を取得し24時間365日見守ることができる、新しい猫専用のウェアラブルデバイスだ。

2015年に業界初のペット分野特化型VC(ベンチャーキャピタル)を設立し、その代表取締役を務めてきたが、ここ数年、ベンチャー市場のペットのウェアラブル系の熱量は常に高かった。それゆえ、これに関連した事業アイデアや投資の相談も多く、正直なところ食傷気味な部分もあった。

そんな中、私が、獣医師としてベンチャーキャピタリストとして、このスタートアップで働きたいと思うようになったわけを書いていこうと思う。カギは「予防医療」だ。


テクノロジーは、どうぶつの命を救うか?

私は、社会人キャリアの前半を獣医師として過ごしてきた。その大半は、救急だ。動物救急病院は、1日の9割が「新患」である。新患には今までのカルテがないので、経過もわからなければ血液検査のデータもないし、おまけにいつから具合が悪かったのかも動物は話してくれない。昨日の体調さえわかれば!先週のデータさえわかれば!と思った経験は数知れない。もしかすると、それで救えた命だってあっただろう。

だから、私は人並み以上に「ペットのウェアラブルデバイスの需要と可能性」を信じていたうちの一人だった。

事業を自分で作るとしたら、と考えたこともあったが、自分のアイデアもVCでの案件も、どれもいまいちピンと来ていなかった。その基準は、私の中で明確にある。

命が救えるかどうか

動物は、体調を言葉に表さず、具合の悪さを隠そうともする(特に猫)。微妙な慢性変化を飼い主が気づくのも困難だ。そして獣医師は、ペットの家での様子を知り得ない。なので、ほとんどは症状が進んでからしか治療を始めることができない

ごく当たり前だが、これは獣医療でクリティカルな問題だ。

動物医療の課題.001

でも、その当たり前を疑ってみるとどうだろう。飼い主では気づけないようなバイタルサインや症状・兆候のゆらぎをテクノロジーが補い、異常を検知することができたとしたら、それは革命的な価値となるはずだ。いままで気づけなかった異常に気付き、防げなかった重症化を防ぎ、治せなかった病気を治すことができるようになるから。


「ヘルスケア領域」での、ペット向けIoTデバイスの盲点

ペット向けIoTデバイスは世界中でバブルの感もあるが、今後さらに増えていくのも間違いない。その多くは「楽しさ」か「見守り」か「健康」に焦点をあてており、とりわけ「健康」への感度は高い。しかし、「動物の体調を24時間365日管理・検知し、これまで救えなかった命を救う」という命題を置いたとき、デバイスのタイプごとに盲点も見えてくる。

真っ先に思いつくのは、見守りカメラだ。直接的に可視化(監視)できる強みは代えがたい。けいれんや嘔吐といった劇的な症状は検知できそうだが、慢性的な症状の検知は難しい。映像データにフルタイムで深層学習をかけ続けるのもハードルが高い。そもそも、画角から外れてしまえば解析ができなくなるのも難点だ。

スマートトイレはどうだろう。特に猫では泌尿器系の疾患が多く、トイレでの異常行動(頻尿や多尿、便秘など)を検知できるはず。腎臓病や膀胱炎などは、かなり早い段階で検知できる可能性もある。しかし、トイレ滞在は日に数回・数分に過ぎず、単体での利用では不十分かもしれない。

やや未来の話だが、生体センサーをマイクロチップとして体内に埋め込む方法もある。しかし、問題は充電だ。デバイスである以上、電源供給は必要だし、データの検知や送信の頻度をあげるほど電池を消耗する。導入に侵襲がかかる点も課題だろう。

首輪型のデバイスはどうか。特長は、24時間活動データを取得しつづけられることだ。もっとも、量だけでなく質(検知できる項目の種類)も重要で、ここが充実していないとただの万歩計になってしまう。首輪である以上、その大きさや重さや見た目も大事だ。可能な限り小さくて軽く、充電持ちが良く、そしておしゃれでなくてはいけない。

・常時記録できる
・データを取得できる範囲(㎡など)が広い
・活動の量と質が両方記録(or分析)できる
・急性症状だけでなく、慢性の変化も検知できる
・デバイスや充電が動物の負担にならない


たった1年で、億を超える猫の行動を取得。 Catlogとは?

前述のように、Catlogは首輪型の猫用ウェアラブルデバイスだ。加速度計を搭載し、特定の行動の波形を読み取ることで、「いま、うちの猫が何をしているか」がわかる。開発するRABO社の言葉を借りるとこうだ。

「飼っているのではない。飼わせていただいている」

この会社では、敬意を込めて猫を「猫様」と呼ぶ。(https://rabo.cat/catlog)

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Catlogを知るとき、まずもってデザイン性の高さが目を引く。ペット産業でクリエイティブを重視する企業は多くない。ポップ体の丸文字フォントと肉球マークがワンワンニャンニャンしていることがほとんどだ。しかしCatlogは、まるでイタリア製のブランド靴を彷彿とさせるようなプロダクトデザインや、洗練されたアプリのUI/UXの作り込み。猫のフォルムを極限まで抽象化し、まるで誰の飼い猫にも見えてくるシンプルなアイコン。HPでは、力強いボールドの黒フォントに硬めの写真。挙動も良い。ペット系企業では類をみない徹底的なブランディングが垣間見えた。

一見、猫に特化した事業幅はせまいようにも思えるが、猫の動きはボーダーレスだ。グローバルに照準を定められる。経営者の伊豫氏をはじめとしたメンバーの精鋭っぷりはもちろん、事業と猫への情熱も尋常じゃないところも良い(ここ大事)。

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だが、私が最も関心をもったのは、その「仕組み」だ。カメラでもなく、トイレでも万歩計でもなく、首輪の動きによって「行動」を数値化できる仕組みを作っていたことだ。インハウスに機械学習のチームを設置しているところからもその本気度がうかがえる。取得した行動の数は、すでに億を超え、もはや世界最大の猫行動DBとも言えるだろう。

この「行動の数値化」が何を意味するか、獣医師ならピンと来るはずだ。それは、予防医療のポテンシャルだ。


体調のホンヤクコンニャクを目指せ。 「行動×病気」データで、やばいくらい色々わかるようになるかもしれない

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全ての行動が数値化できるという武器があるのなら、例えばけいれんを検知できるかもしれない。嘔吐や呼吸困難だってリアルタイムでわかるだろう。それだけじゃなく、なかなか気付きづらいロングスパンの活動や行動の変化(元気の定量化)や、多飲多尿などの症状も早期にわかるかもしれない。病気ごとに特徴的な行動パターンが存在している可能性もある。いわば、体調のホンヤクコンニャクになれるポテンシャルがある。

Catlogに限らず、こういう自宅でのなにげない行動から未病状態の疾病を検知・予測できれば、まるで天気予報のように症状発生前からアラートを出すのも現実となる。ある程度精度が高まれば、動物病院の電子カルテ上には、メディカルログの隣にライフログが並ぶ日も来るかもしれない。予防医療が飛躍的に進む未来が見えそうだ。


投資? いやいや、これは合流でしょう。

もちろんそうそう簡単なことではないが、「あんなこといいな」より、ずっと現実味がある。Catlogは「命が救えるデバイスに成長できるのではないか」そう感じた。もっとエモーショナルには、個々の行動の生涯ログがあれば、アプリの中で生き続けるという形だって。

VCとして素晴らしいスタートアップ企業と出会ったとき、投資という握手の方法が普通だが、私はむしろ合流して一緒にこの事業を伸ばしていきたいと感じた。獣医師というアイデンティティを持ちながら事業をサポートすることで、投資以上により良い製品の開発につなげ、新たなアプローチから「命を救う」という価値に挑戦していければと思う。

Catlog®︎ https://rabo.cat/



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