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#16兼業生活「<人間くさい>商売から見えること」~小川さやかさんのお話(2)

なぜ大手ECサイトより、マチンガのSNSが人気なのか

室谷 前回のお話から、私たちが面倒な人間関係をシステムに置き換えて楽になったと思いきや、その窮屈さに押しつぶされそうになっている……ということが見えてきました。

小川 タンザニアの人たちが面白いのは、ふだんから泥臭い人間関係に慣れているので、インターネットが普及してもその全部に乗っていかないところ。むしろ人間関係の基盤を生かしながら、必要に応じて取り入れているように見えます。

2022年夏のフィールド調査では、零細商人たちのSNSを用いたビジネスを参与観察しました。タンザニアではInstagramやFacebook、WhatsApp(日本でいうLINEのようなサービス)などのSNSが盛んで、零細商人たちも商売に活用しています。彼らは仕入れた商品の画像や動画をInstagramやFacebookに流し、その下にWhatsAppの連絡先を書いておく。ほしい人がいたら個別に値段交渉をして、成立したらボルト(エストニアの会社が運営するモビリティサービス。ウーバーのように配車やデリバリーのサービスを提供している)が、商品を配達してくれます。
 
だからウーバーイーツのような手軽さで、ありとあらゆる雑貨やサービスがSNSで注文してすぐ届くんですね。「写真に写っているカバン1個とベルト1個ください」という注文もあれば、「友達を待っていて暇だから、ネールアートをしに来て」という注文もある。

タンザニアではアリババやジュミアなど大企業が運営するECサイトも使えますが、マチンガたちのSNSからの買い物もそれ以上に好まれています。なぜかというと、ECサイトは定価販売ですが、知り合いのマチンガなら価格交渉ができる。ほかにもECサイトがいまのところできない、個人の事情や人格に応じた采配がたくさんあるからです。

例えば、あくまで例えばですよ、私がアルコール依存症でどんどんお酒を買っていたとして、ECサイトだとさらにレコメンド機能でお酒を掲示しますよね。でも知り合いの商人なら、「最近、酒を買いすぎじゃないか。なにかあったのか」と当然聞いてくる。同じ服ばっかり買っていたら「たまには冒険しろよ!これ、似合うと思うよ」と新しいのを教えてくれるし、買い物しすぎだと思えば「子どもがまだ小さいだろう。散財しすぎないほうがいいぞ」とお節介なことも言ってくるわけです。もちろん、私が羽振り良さげだったら、脇の甘さを見抜いて高い金額をふっかけてきたりもしますけど(笑)。
 
おそらくタンザニアの人たちにとって、大手ECサイトのシステムよりも、こうした商人たちとの人間的な関わりのほうが安心できるのでしょう。たしかに彼らはぼったくるときもありますが、相手が本当に悪い状態のときに追い打ちをかけるようなことはしませんから。そこにはある種の、私たちが考えるのとは違う信頼があると思います。

室谷 人間関係が基盤としてあるから、SNSはそれを捕捉するような使い方になっているんですね。最近、日本ではSNS上の発言に対してバッシングがすごくて。見ていてつらいですが、これも人間関係が苦手になってしまったことと関係ありそうです。

小川 私たちの日常会話って、もともと一貫性がないものですよね。まず言葉を投げかけてみて、相手の反応やレスポンスを見ながら次の言葉をどんどん変えていく。そういうやりとりをSNSでやろうとすると、「前に書いた文章と一貫性がない」とか、ポンと投げた言葉について怒られる。日常会話でそんなに熟考していたら、会話が止まってしまうと思うんですけど。

SNS上の会話を「冷静に、熟考してから投稿しましょうね」「それで怒られたらあなたの責任ですよ」と、きちっと正していくのか。それとも、これは日常会話なんだと諦めて、不快なことがあれば「ちょっとそういう言い方、嫌い」「え、そう?ごめん」と気軽に言い合えるレスポンス状況を取り戻すのか。どちらを選択するかで、SNSのあり方が大きく変わりそうです。

室谷 そもそも人間はロボットじゃないし、発言に過度に一貫性を求めなくてもいい気がしますが……。

小川 本当にそうですよ。もし昨日と今日の間に大恋愛していたら、人間の意見なんて簡単に変わっちゃいますよね。

(つづきます→「ついでに、気軽に。お金や支援を託す『人間貯金』」)

※写真はすべて友人である写真家の中村紋子さん@ayaconakamura_photostudio によるものです

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