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柳に風と(わたしえらい)

有料老人ホームに入っている母。この3月で96歳になる。

ほぼ寝たきりの状態ではあるが、痴呆症ではない。
レポート用紙に文章を書いたり、ティッシュペーパーを器用に折ったりしている。携帯電話も問題なく使っている。(娘の私への通話だけだが)。

が、ここのところ忘れっぽくなってきた。
ーーー

朝、電話がかかってきた。

母「朝ご飯のお迎えが来ないの。8時になっても寝てるんだけど、いったいどうしたらいいの」

そんなことがあるのか。とりあえず少し待ってみるように話す。
困った、困ったと何度も繰り返す母。

忙しい朝の時間帯だったので、私もむっとしてしまい
「とにかく、少し待ってみなよ!」と言葉も荒く言い返して電話を切った。

ーーー

午後、ケアマネさんに電話をして事実関係を調べてもらう。

母は、朝ごはんを断っていた。

朝のオムツの排泄物が多いと、その処理だけで疲れてしまう母。
そんな時には、朝ご飯はやめて、自分の部屋でエンシュアー(高カロリードリンクのようなもの)と薬を飲む。

ケアマネさん「ご自分で断わられたんですけど、お忘れになってしまったようなんです」

あつこ「そうですか、ご面倒おかけします。引き続きよろしくお願いします」

とうとう、ボケの始まりだろうか。仕方ない。96歳だもの。
寝たきりでありながら、会話が成立していることが驚きだ。

つい先日、リモコンがないと騒いだときのことを思い出した。
母の心臓の具合があまりよろしくない。
いよいよの時には、どうしたらいいだろうか。

あつこ「こんなふうに忘れてしまうときにはどう対応したらいいんでしょうね」

ケアマネさん「そうですね。
相手を非難したりせずに、そうね、そうねと話を聞いてあげれば良いと思いますよ」

ーーー

昨日の深夜2時16分、母からの電話が鳴った。
いったいどうした?

母「夜中にごめんね、おむつ交換に来てくれないの。おむつがびしょびしょで困ってる」

あつこ「(寝ぼけ声)もう事務所も閉まっているし、連絡できないよ」

母「じゃあどうすればいいの?あつこちゃんにしか、相談できないのよ」

同じような会話が続いて、母の不機嫌さも増してくる。

母「おむつ交換の時間はちゃんと書いてあるのよ。
夜中の11時と、2時と、5時」

いろんなことを書いている母。おむつ交換の時間もレポート用紙にサインペンで書いてある。

母「今日の夜のお当番はSさんなんだけど」

その日の夜勤の担当者の名前も書いている。
会話がしっかりしている。
2時のオムツ替えは、、、されていないのだろうか??
わからない。

ケアマネさんの言葉を思い出す。

(そうね、そうねと聞いてあげる)

ーーー

腹をくくった。
母の言い分をとにかく聞いた。
夜の担当者や、おむつの時間をちゃんとメモに取っていることを偉いとほめた。

母「メモを取るのは私の仕事だから」と声が嬉しそうに弾んでいる。

ひとしきり夜中の電話に付き合う。
そして、さりげなく提案する。

あつこ「呼び出しボタンで、おむつのことを聞いてみたら」

母「さっき聞いてみたんだけど、取り替え時間は5時ですって言われちゃったの。5時って言ったらもう朝よね」

ああ。ピンときた。
たぶん2時に取り替えてもらったのを忘れちゃったんだな。

替えてもらった直後にまたオムツが汚れてしまったのだろう。
ーーー

排泄の問題は難しい。

人一倍、きれい好きだった母。
自分のお尻が汚れている状態に我慢ができないのだろう。

いや、今までは少々汚れていても自制心が効いていたから、次の取り替え時間まで我慢もできた。
96歳になって我慢ができなくなったんだろう。

あつこ「明日の朝、ケアマネさんに電話をして、お母さんがそうやって困っていると伝えるよ。
だから、、、わたし、寝てもいいかな。」

母「迷惑かけてごめんね。申し訳ありません」

電話は切れた。
その後の眠りは浅かった。

ーーー

次の日の昼休み時に、ひとりでコーヒーを飲みながら。

母とあとどのくらい一緒にいる時間があるだろうか考えてみる。

毎週末の面会はだいたい30分ぐらいだ。

1ヵ月だと30分× 4で120分。2時間。

1年だと2時間× 12で24時間。

1年間で1日。

現在96歳の母。
あと、4年間、生きたとしても
一緒にいる時間は4日間。

心臓の具合の悪い母の時間は、あとどのくらい残されているのだろう。。。

ーーー

昨日の夜中の対応は、なかなか良かったのかもしれない。

柳に風と。

わたし、えらい。
わたし、えらい。

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