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ノラネコのケンカみたいな傷が鼻にある2

木を切ることに憑りつかれた夫

数コール鳴らしたら夫が電話をとった。
「木切ってら!ハクランになりそうだ!」と言ったのだった。

彼は去年から突然、敷地の木を切るようになった。
木という木…家の敷地の杉、赤黒トド唐の松という松、秋が楽しい栗と柿、侵略してきてる藤・ニセアカシアなど、バッツバッツと切り倒している。
ときどき、頼んでもいない私の母の実家の木まで、自ら木を切りに行く。
木を切るとチェンソーの歯が切れにくくなるので、刃を磨く。
道具も買いそろえた。チェンソーは新旧含め2台、レシプロソー2台、そのほか、ポールソーとかいう高枝切りばさみと、バリカンみたいなやつと、おもちゃっぽいチェーンソーがそれぞれ1台ずつある。
平日帰ってくるとYouTubeで伐採動画とか、アイテム検索とかしてる。

私は敷地の木の伐採に立ち会うと魂が消耗する。
この家族の歴史を見守ってきた木々が、ものの数分で切り倒される。
チェーンソーが大きな音で回転し、どんどん幹に入っていき、木っ端が周辺に撒き散る。倒れる寸前、生きてる木が割れバキッという大きな音がして、ゆっくりと木は倒れていく。地面に落ちたとき、重い音とともに地面が揺れる。
木を切り倒す一連の行為って、木の命を、まさしく断っている。

ふだん飼い犬のように穏やかな夫が、デカい声で家族に指示を出し、
何のためらいもなくチェンソーを入れていく様子は、ギャップがありすぎて怖い。
あんたは何かに憑りつかれてるよ。

憑りつかれている状態の夫に状況説明の上、助けてほしいと伝えた。
「いま1本切ったどこだから!枝、山さ捨てだら行くがらちょっと待ってで!」
チェンソーで木を切ってテンション上がってる夫と、自分のいま現在の命のちからの差を感じた。

飼い犬のようにおとなしい夫は、
木を切って、心の平均を保っているのかもしれないと今思った。

(2おわり。3につづく)


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