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解くべき「問い」を考える

日々、業務をしていると解くべき「問い」が山積み状態です。
でもそれって、本当に解くべき「問い」なのか。

Revenue Ops.(レベニューオペレーション)を行う上でも、何が正しいということではなく企業理念や経営資源、収益性などを考慮し
何が最適なのか、と考える必要があります。

先日、取材させていただいた株式会社ミスミグループ本社 常務執行役員 ID企業体社長 吉田 光伸 さんは事業の中で「顧客時間価値」と一貫した視点で事業を運営されています。

組織の意思決定を判断する際に、「顧客時間価値」を如何に創出するかという基準に応えられているかという事が、最も重要な「問い」になるのだと思います。

私自身、営業のプレイヤーやマネージャーとして15年程の経験を積んできた訳ですが、心がけていたのは「売る」を目的にしないという事でした。マーケティングを担当することになった今でも大切にしていることです。

いつも体現できているかというと、チームメンバーから指摘され反省することも多いのが現状です。

それでも、社会環境が激変し、価値基準が大きく変わるような事象が発生しないかぎり、これからも大切にしていくと決めています。

営業なのに「売る」が目的ではない?というと不思議に思うかもしれませんが「売る」は私にとって手段であり、目的は企業の理念として掲げている、「Empower Data, Innovate the Business, Shape the Future. 情報に価値を、企業に変革を、社会に未来を。」
これを営業という手段を通じて実現するという考えが根底にあります。

これは特に誰かから教えてもらったという訳ではなく、自身の体験や、経験から「一番しっくりとくる」と感じていることです。

そのうちの経験の1つとして、新卒入社した後の会社で実施した新人研修があります。(この話は何度か取材や記事でも触れている内容です)

突然始まったその営業研修は、複数名で構成されたチームを組み、指定したエリア(東京区内)で用意された商材から好きなものを選び、街で販売してくるというものでです。

後で聞いたところ、毎年実施している研修で、殆どのチームはまったく売れずに帰ってくる、売れたチームであっても販売成果は数個というものです。

結論からいうと、私が所属したチームは過去の更新し、その後も破られたことがない成果を残すことが出来ました。自分でも驚きましたし、大きな達成感があったことを憶えています。でもその興奮は、その後の地獄の研修の中で直ぐに冷めることになったことも良い思い出です。

研修後に他チームや研修を企画した人事の方とも情報交換して分かったのですが、多くのチームは「売ること」に必死でした。「相手のこと」などまったく考えずに「とにかく目の前の人に売ること」を考えたようです。

これでは「相手が喜ばない」という感触がありますし、それにより販売効率が悪いと想像できます。「相手が喜ばない」=「売りにくい相手」に「売る」という行為が効率良い訳がありません。

あの手、この手で「目の前の人に売る」ために手段を尽くします。つまり「目の前の人に売る」という事が「解くべき問い」になっていました。

我々のチームがどのように動いたのかというと、まず特に理由はないですが、販売する商材を傘に決めました。大人用の傘や、子供用のキャラクター傘などいくつかの種類が用意されていました。

そして、まず始めたのはリサーチです。

・考えていも何も得られない(初めてのセールスで経験値が無い)
・まずは行動してみよう
・打席に多く立って経験値を溜めてみよう

そこで分かったこと

・傘は実用品で、それ自体に価値はある
・実用品が故に、大抵の人は傘を所有している
・突然の雨で傘を携帯していない人には需要がある
(でも、今日は晴れている)

その中で突破口となりそうな事例がありました

・子ども用にキャラクター傘を親御さんに提案してみた
・結果、やはり子どもの傘はもう持っている

この時、お子さんがいるご両親には傘のニーズがないことが分かったのですが(既に持っていて、予備に買うにしても自分の好みやお子さんの好みを優先する)、ひょっとしたら「お孫さんに傘をプレゼントする」という価値が存在するのではないかと思い付きました。

・傘は実用品
・子どもの傘は、壊れやすい(子どもが遊びに使うので)
・つまり、ストックがあってもいずれは使い道がありそう
・何より祖父や祖母がお孫さんにギフトを贈るという体験が生み出す価値

自分が祖父の立場だったら、お孫さんに喜ばれそうなプレゼントを贈る体験はそれ自体が良いものだと思うし、いいストーリーだと思えました。
そこで、この仮説を実証しました。

「このキャラクターはとてもお子さんに人気です。このキャラクターがプリントされた傘をお孫さん用のプレゼントとしていかがですか?お孫さんもきっと喜んでくれると思いますし、傘は実用性も高く、特に子供用の傘は壊れやすいのでご両親にとっても余分なものではないはずです。」

※傘に描かれているキャラクターは電気を発する黄色いネズミのキャラクターで、当時の子ども達にとても人気がありました。(今でも人気です)

この作戦が大当たり。

販売したお孫さんをお持ちのおじいちゃんやおばあちゃんが喜んでくれて、近くの寄り合い所を教えてくれたりしました。その寄り合い所で販売を開始したところ、ちょっとした人だかりが出来るほどの賑わいで、在庫がなくなるまで販売出来ました。

我々のチームは「とにかく目の前の人に売ること」は解かずに、「誰が喜んでくれるのか」(誰に売るべきなのか)を解いていたという事です。

むやみやたらにこちらの都合で売りつけるのは、非効率。そんな売り方は向かい風の中を歩むようなもの。そしてこの積み重ねは、売り手の信用も損なってしまう。企業であればその組織の信頼を失うことになり、現代のSNS社会ではそれが一瞬で広く行き渡ることになります。

商品の価値を見極め、誰に喜んでもらえるのか、リサーチを行い
その結果から仮説を立て検証を行いました。

ターゲットが明確で絞り込まれています

それにより「誰が喜ぶのか」が明確になったことで、アプローチ対象が減りアプローチが効率的になっただけでなく、そもそも需要を生み出せるターゲットを選定したことで販売効率が高まります。そして、それが広がっていくことで更に速く簡単に多くのお客様と出会うことが出来るようになりました。

このような経験を積み上げた結果、私は常に「誰が自社の提供できる価値を喜んでくれるのか」という事を考えるように自然になりました。それは逆に言うと自社の提供できる価値がない顧客を出来る限り避けるということになります。

そのために顧客を知り抜くこと、顧客は何を求めているのか、顧客は何を大切にしているのか。そして自社商材や提供価値が何なのかを徹底的に知り抜くことを今でも重要視しています。もしそれでも価値ある提案を見つけることが出来ないようであれば、それは販売する前の段階の問題である可能性があり、事業開発などに遡って検討をしなければならないかもしれません。

営業だった頃に、実際に他社商材の方が絶対に喜んでもらえそうな時は他社商材をお勧めしたことがあります。

逆に例え時間がかかりそうでも、必ず我々が力になれると見込んだ顧客に対しては、競合製品を利用していても中長期でアプローチし続けていました。これは最近のことですが、十数年前に提案していた大手顧客から当時の提案がきっかけになり商談に繋がったケースもありました。

口八丁手八丁で売りつける手法では、短期的な売り上げには繋がるかもしれませんが、相手の信頼を失ってしまう蓋然性が高くなります。別の視点では本来集中すべき顧客を見逃してしまう可能性があります。そういったことを
継続すれば、結局は事業が不利な状況に追い込まれるのだと思います。

顧客が喜ぶ本質的な価値の提供を考えていく方が結局は重要だと思います。

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