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若者の “自民党支持” の背景をデータから読み解く

近年、安定して支持を集めている自民党。最近では、特に「若者の自民党支持」にまつわる言説が広がっています。もともと、自民党は年齢が高いほど支持を集めやすいという傾向がありましたが、状況は変化してきているようです。先日の選挙後にも、出口調査の結果を踏まえて朝日新聞が次のように指摘しています。

今回の参院選でも自民への投票が高止まりしている傾向は変わらず、立憲と国民の2党を合わせた投票は16年の民進党とほとんど同じだ。若い有権者の自民と立憲・国民への投票行動の落差が、自民の堅調ぶりを支えているようにも見える。

なぜ、現代の若者は自民党を支持するのでしょうか。これまでにも広く検討されており、多くの識者が見解を述べてきました。しかし、あまりにも多くの見解が存在しており、推測の域を出ていないという批判があります。

本稿では、若年層(20〜30代)の自民党支持に関連する学術研究を紹介し、若年層の自民党支持の背景を整理してみたいと思います。

そもそも、若年層は自民党を支持しているのか

まず、若者が自民党を支持しているという根拠ははっきりとしていません。政治学者の菅原琢さんは、ブログ()や菅原 (2016)において若者の自民党支持はけっして高いとは言えないことを主張しています。特に、菅原 (2016) は、データに基づきながら、世論調査での自民党支持率の結果が有権者全体の真値よりも高くなっている可能性を強く指摘しています。

そもそも、若年層の自民党支持が増えているという状況の定義もはっきりしていません。本稿では、相対的にみると若者が以前よりも自民党を支持するようになったと考えて、議論を進めます。(具体的には、松谷 (2019) にしたがい、最近の若者は過去に比べて自民党を支持する割合が高いが、壮年層ではそうした変化がみられないという状況を「若年層の自民党支持」が高まっていると判断しています。)

自民党支持の背景

若者が自民党を支持する背景にはどのようなものが考えられるでしょうか。まず、現在の自民党の価値観が若者の価値観と一致している可能性が考えられます。例えば、これまでの議論の中では、若者の「保守化」に伴う「伝統主義」、または「新自由主義」、「物質主義」などが挙げられてきました。一方で、自民党でなくとも良いが自民党を支持するという志向性も考えられます。具体的には「権威主義」「宿命主義」といったものが挙げられてきました。

本稿では、以上の5つの意識を仮説としている松谷 (2019) を中心に紹介していきたいと思います。この研究は、2015年SSP調査という大規模な社会調査のデータをもとに定量的に若年層の自民党支持の背景を分析しています。

若年層の「保守化」

保守主義とは、デジタル大辞泉によれば「既成の思想や制度を尊重し維持するために、その変革に反対する政治的、社会的立場。」のことです。若者の保守化・右傾化は世界的にみられる兆候という指摘もありますが、果たして若年層は本当に保守化していると言えるのでしょうか。

そもそも、若年層における「保守」の理解が変化してきている可能性が示されています(稲増・三浦, 2015)。また、先日放送された、NHKのクローズアップ現代プラスでも意外な感覚を示す若者の姿が映し出されていました。

写真は各政党を保守ー革新の軸上に並べてもらった回答の一つです。一部の若年層から、自民党は「保守」と思われていない(むしろ「革新」系の政党とされている)ことが読み取れます。ここから、若年層の「保守」観の変容が起きていると考えられます。

余談ですが、現れいわ新選組の山本太郎氏が「(法案に)賛成する者は、2度と『保守』と名乗るな!。保守と名乗るな、『保身』だ!」と叫んだことがありました。この発言の賛否はさておき、自民党の政策が「保守」とは少し遠ざかってきているという面もあると思います。元東京都知事の舛添要一氏のインタビューでのこんな言葉も印象的です。

今の産経新聞から見ると、今度は私が左翼になっているでしょうね。私の発言や思想は変わっていないのに、かつて右翼で今左翼って、何なんでしょうね。

ほかにも「若者の保守化」という言説には批判的な見解がいくつもあります(中西, 2018 ; 松本, 2018 ; 遠藤・三村・山﨑, 2017)。また、松谷 (2019) の言葉を借りれば、若者の「保守化」とは、政治への消極姿勢や新たな権威的リーダーの希求を意味するものであり、拙稿で以前に論じた「現状維持バイアス」に近い要素を強く含んでいると考えられます。

さて、松谷 (2019) は、若年層の保守化によって「伝統主義」が強まることで自民党支持が拡大されているという過程を想定して分析を実施しました。結果、若年層では伝統主義から自民党支持への有意な影響は確認されず、伝統主義の効果は壮年層のみにとどまることが示されています。

やはり、若年層からの自民党支持には「伝統主義」的なものはあまり関連していないことが示されました。若年層の「保守」化は、従来的なものとは一線を画しているのです。では、別の保守的な態度の一つと考えられる「権威主義」的な態度は影響を与えるのでしょうか。

「権威主義」は自民党支持に影響するのか

権威主義とは、権威を絶対的なものとして重視し、権威をたてにとって思考・行動したり、権威に対して盲目的に服従したりする態度のことです。すなわち、自民党だから支持されるというよりも長年にわたって与党を務める「権威」だから支持されるということです。これも「保守」的な価値観の一つと考えられます。

渡辺 (2017) は若年層の中で高学歴層の文系学部卒において権威主義化が進んできていることを指摘しています。また、松谷 (2016) は、若者の「保守」化を捉えるために「権威主義」「愛国主義」「排外主義」「セキュリティ意識」の4つの価値意識に着目して他の年代との比較をして、若年層においては「権威主義」の高まりが特徴的であることを指摘しています。

また、松谷 (2016) によれば、若年層の権威主義化はいわゆる「右傾化」と同一視されるものではなく、権威ある他者の判断への依存によるものではないかと考察しています。つまり、若年層の権威主義は、いわゆる「政治的無関心」に支えられている可能性が高いと考えられます。さらに、濱田 (2019) も、現代の若年層の権威主義は、従来型の偏見やファシズム、政治的な保守化を伴うものではなく、むしろ閉塞感から来る大勢順応的な権威主義であることを指摘しています。

では、若年層において権威主義は自民党支持を強めているのでしょうか。松谷 (2019) が示したのは、皮肉にも2015年 (現代) の若年層のみにおいて、権威主義から自民党支持への有意な影響がみられないという結果です。(1995年に行われた類似調査では、権威主義から自民党支持への効果がみられているました。)また、青山 (2018)は、京大生を対象とした調査において、権威主義と自民党支持に目立った関連はみられていないという同様の結果が得られています。

若年層における権威主義の高まりに反して、権威主義が自民党支持に与える影響は見られないという皮肉な結果がみられています。以上で見てきたように、若年層における自民党の支持は「保守」的な態度とは関連が薄いと考えられます。(正しく言うと、反権威主義・反伝統主義であっても自民党を支持しないわけではないとも言えます。)

現代の若者の自民党支持を規定するもの

ここまで、保守的な態度である「伝統主義」や「権威主義」が自民党支持に与える影響はみられないか、弱まってきていることを指摘しました。では、一体なにが若年層の自民党支持に影響を与えているのでしょうか。松谷 (2019) は、「新自由主義」「物質主義」「宿命主義」こそが現代の若年層の自民党支持の規定要因であることを示しました。

新自由主義とは、政府などによる規制の最小化と、自由競争を重んじる考え方のことです。規制や過度な社会保障・福祉・富の再分配は政府の肥大化をまねき、企業や個人の自由な経済活動を妨げると批判し、市場での自由競争によって、富が増大し、社会全体に行き渡ると考えます。

物質主義とは、精神的なものより物質的なもの(財貨・金銭・物品の獲得・所有・占有・使用など)が重要であると考える態度のことです。

新自由主義と物質主義の価値観が自民党を支持しているということから、いわゆる「経済重視」の考え方が、自民党を支持する心性となっていることが分かります。自民党を支持していながら増税に反対する人が少なくないのも、増税は経済を冷え込ませる可能性が高いということから説明できそうです。

宿命主義とは、いくら努力しても報われず、あらかじめ家庭環境等によって人生は決められているといった人生観・社会観のことです。宿命主義は、冷笑的な態度とも親和性が高く、政治を変革しようという動機づけを持たないため、現状維持志向(消極的な自民党支持)と深く関わっていると考えられます。ただし、松谷 (2019) では、宿命主義は若年層では自民党支持にプラスの影響を、壮年層ではマイナスの影響を及ぼすという興味深い結果が示されています。

以上の3つの意識について1995年と2015年の意識変化を調べたところ、物質主義的傾向は急増しており、特に若年層の増加率が大きいことが示されています。また、宿命主義は若年層・壮年層ともに大きな増加がみられました。新自由主義については、2015年のデータのみですが、若年層においてその傾向がより強いことが示されています(松谷, 2019)。

まとめと私見

以上の結果より、若年層の自民党支持に影響する要因としては、経済を重視する傾向である「物質主義」「新自由主義」といった積極的支持につながる要因と、現状維持を重視する傾向である「宿命主義」といった消極的支持につながる要因が存在していると考えられます。同時に、しばしば語られている「若者の保守化」やそれが自民党支持の要因であるという見解は、実態を正確にとらえられていない可能性が示唆されました。

しかし、本稿には大きな限界があると思います。それは「政党への支持」と「投票行動」は必ずしも一致するというわけではないということです。特に、若年層は壮年層よりも支持政党なしが多く、投票直前に投票先を決定する人も少なくないことが指摘されています。

特に、「新自由主義」や「物質主義」といった志向性は、積極的な自民党支持の心性は説明できても、若者に多い「無党派層」の投票行動を説明できないと考えられます。さらに、投票先を決定するのが直前ということは、あまり深く考えずに投票先を選択している可能性もあります。つまり、「宿命主義」のような社会意識すらも投票行動には関与していない可能性があるでしょう。

一般的な状況において「自民党を支持する」ことと、選挙において「自民党に投票する」ということは必ずしも一致するものではありません。この点には十分に注意しながら読み解く必要があると思いますし、今後は投票行動の背景についても読み解くことが求められるかもしれません。

参考文献

本稿は、以下の書籍の第3章「若者はなぜ自民党を支持するのか ―変わりゆく自民党支持の心情と論理(松谷満)」を中心に学術研究を紹介するというスタンスで書きました。詳しい結果については同書をご参照ください。(他の章にも、非常に興味深い内容がたくさんあります。)

余談:泡沫候補が人気を集める背景

本稿では自民党を支持する背景について、学術研究の紹介を行いましたが、それよりも2019年の選挙では、いわゆる「泡沫」候補の当選が印象的でした。今年の前半だけでも「NHKから国民を守る党(N国)」や「幸福実現党」の大躍進、港区議会議員選挙でのマック赤坂氏の当選などがありました。いま私たちが目を向けなければならないのは、むしろ泡沫政党が当選していったことではないかとも思っています。

文筆家の古谷経衡氏は、次のように述べています。

N国に魅了される人々は何なのかというと、雑駁に言えば「2010年~2011年前後」という、ネット右翼の黄金期に、立花氏をはじめとして彼らを「動画の中で」強烈に記憶していた古参兵が半分とみる。
しかしそれだけでは議席に届かない。もう半分は、N国候補らの政見放送をみて、思想もなく、主義もなく、主張もなく、思慮もなく「あはっ、なんか面白ーい!」という、限りなく無色透明の、「政治的非常識層」である。彼らには右か左か、右翼か左翼かという区別は当てはまらない。

この12年間で、「ただただ爆笑して泡沫と笑う」ことが「暗黙のマナー」であった、この国の有権者の「政治的常識」が崩壊し、カメラの前で馬鹿な格好をして面白いことを言う人を、「あはっ、なんか面白ーい!」という感覚だけで、実際に票を投じる人が港区だけで約1,000人増えたのである。これの国政拡大版が、N国支持者のもう半分の実相なのではないか。

ハーバービジネスオンラインの記事で紹介されていたのは、少し異なった角度からの有権者の意見でした。

政見放送は純粋に面白かったと思います。山本太郎さんの放送ですら40万回しか再生されていないのに、立花さんの動画は300万回以上再生されています。きっとはじめしゃちょーの動画を面白がるのと同じように、楽しんでいる人が多いのだと思います。Twitterでもかなり話題になりましたよね。 こうした部分も含めて、単純に面白がっている部分もありますね。『当選したところを見てみたい』という気持ちもありますし、当落線上にあるからこそ、自分の一票が生きるとも思います」

N国のような泡沫政党を支持する背景を、本稿のように学術的に(統計的に)分析・検討することは、サンプル数の問題などもあり、不可能に近いと思います。しかし、今後の日本政治を考えていく上では、泡沫政党が人気を集めるというこの兆候の背景にあるものを検討する必要があると思います。

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