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サコさんとともこさん対談〈その2〉

今日は、京都精華大学のウスビ・サコ学長と去る6月16日に行った対談の第二部【民主主義と政治】篇をお送りします。

※この対談は6月16日に行われました。

【第二部:民主主義と政治】

日本とデンマーク 民主主義の違い

ニールセン:民主主義の話についてもお聞きたいんです。
デンマークに来て驚いたのは、幼稚園から民主主義の話をするんですよ、先生や保育士さんも。社会の中で、どの場面を切り取っても、どの年代の人と話しても、二言目には「民主主義が」っていう話になるんです。

日本では、民主主義っていう言葉はみんな知ってるけど、自分もその一部だっていう感覚があまりないなと感じています。その要因はいろいろだと思うのですが、日本の場合はずっと自民党政権が続いてきて、政治は政治家に任せておいてくれれば、みたいな感じで今まで来て、現在は結構政治家が好き勝手にやっていて、取り返しがつかないような状況にまでなっていると感じます。

ただ、今回のコロナの件があって、民主主義がすごく大事だっていうことも、たくさんの人が国会中継を見るようになって意識するようになったんじゃないかなと思うんですね。ひどい議論が行われてるとか、議論にもなってないとか(笑)。

日本がこれから民主主義に目覚めて、ものすごく遅れている部分をアップデートしていくためにはどういうプロセスが必要だと思いますか?

国民ひとりひとりが政治への責任を負っている

サコ:日本の国家スタイルは国民国家なので、国民が一応国家を運営してくれる人たちを選ぶということになるんですが、大きな問題は、国民の政治教育がちゃんとできないこと。投票権は18歳まで下げましたが、でも投票しに行く人は自分のこの一票の重さとか、一票の大切さというのが理解されていないし、単なる投票で誰かが選ばれるんじゃなくて、投票した自分に責任もあるということが重要ですよね。政治家を選んで任せるだけじゃなくて、やっぱり自分にもちゃんと責任が伴ってるということを自覚しなければいけないと思うんですよ。

これが今、日本に欠けているところで、いわゆる国民の国の運営に対する参画ですよね。だから、政治家に任せとけばいいっていうのは、もう自分自身は諦めていることに等しい。でも、政治家が決める内容は自分の身に降りかかってくるということをちゃんと認識していなければいけないと思うんです。それをみなさん微妙にわかってなくて。やっぱりちゃんと自分が政治家を選ぶ、そして、その選んだ政治家の行動を批判できる、もしくは褒めることもあるかもしれない、それぐらいの責任感を持つ。こうした考えをみなさんが持つ必要があります。

日本は今回のコロナで目が覚めたかどうか。これも微妙なところではあると思うんですが、少なくとも、地方自治の力の限界を感じたところはあったでしょうね。例外はあるんでしょうけど、基本的には国主導で物事が動く。地方の知事たちは、国が決めてないから私は決めれないと。結構そういうケースが多いですね。その国の政治がうまくまわらないと、物事が麻痺する。これを見ても、政治家として誰を選ぶかということと、ある意味連動してるんじゃないかと私は思うんです。大切で、もっと考えるべきポイントだと思います。

社会の変化に対する受容と忍耐力が必要

もう一点、政治が嫌いとかいいとかっていうのは、日本人は変化に対する怖さがあるのと同時に、変化に対する忍耐力がないですよね。もう少しがまんすれば、この変化が新しいものをもたらしてくれるかもしれないということをみなさん、待てないんですよね。政治もそうだし、ある政治家がこういうこと言ったとかああいうこと言ったとか、悪い部分もあるかもしれない。でも一旦政権が変わったら、やっぱりちゃんと次の政権が政治を動かせるようにみんな待たなきゃいけないのに、また変わった政権に対しても、やっぱりお前らダメだからもう出てけって変えてしまうんですよ。だから、政治に対する感覚と参加の度合は問題があると感じますね。

ニールセン:政治に関して、デンマークに来て学んだのは、投票するだけではやっぱりダメだっていうのはサコさんもおっしゃっている通りで、デンマークの人は政治家は選んで育てると考えているんです。自分が育てがいのある人を選んで、自分たちの暮らしたい社会を一緒につくってくれる政治家に自分たちが育てていく。だから、そこまで責任を持って選ぶんだっていう感覚なんですね。

生まれながらにして素晴らしい政治家という人は一人もいないから、やっぱり有権者がどう導くかということだと思うんですよね。政治家も最初は誰でも皆高い志を持って政治の世界に入っていくと思うのですが、選ばれたら終わりで周りの有権者がいいことも悪いことも言ってかないと、どんどん長いものに巻かれて、上の権力のある人に言われることを聞くようになってしまって、なんで政治家になったんだっけ?って分からなくなってるような人もたまにいますよね。私は政治家の方と仕事することもあって、たまにそういう話になるんですよね。有権者がちゃんと見てますよ!っていう姿勢を見せるのが大事だなと思うんです。

サコ:そう、それはとても大事なことですよね。
でも、皆さんはまぁ、適当に選べばいいやとか、情で選べばいいやとか、友達に言われたから選んだとか、これからは、政治家がどういう思想を持って、どういう計画を持ってるかというところを、投票する前にもっと考えていかなきゃいけないなと思います。

ニールセン:民主主義に関して、デンマークの人にとって自分ごとになっているのを感じるのは、例えば、地方自治選挙の時とかに 立候補者が中学校とかで討論をやったりするんですよね。彼らはまだ中学生だから投票権はないのですが、中学生が考えてることも、ちゃんと聞いて討論します。中学生との討論にもきちんと応じられない人には投票したくないし、親にもそう言うよっていう構図で。彼らもじきに有権者になりますしね。
だから、ちゃんとそれぞれの政党から候補者が集まって、中学と高校と大学といろんな組合とか協会とかで討論会を行ったりしていますね。

私自身、日本でも18歳で立候補もできるようになってないと、本当の民主主義じゃないと思うんです。この秋ぐらいからそういうキャンペーンをやりたいなと思っています。

サコ:それはそうですね。投票権だけではなくて、被選挙権も重要ですよね。

この間、フランスのどこかの地方の市長に大学生が選ばれましたよね。勉強しながら市長をやっている。これは大事だと思うんですよね。

でも日本では、この人がちゃんと経験を積んできてるかとかどうこうというところにこだわるんですよね。最近は若い政治家も増えてはいるけど、思ってることがちゃんと全部活かされるかのかというと、そうでもないわけで。

ニールセン:そうですね。それに、ある程度のお金を用意できる人じゃないと立候補できないっていう供託金のシステム自体も民主主義じゃないと思います。

それから、民主主義というと、日本の場合はかなりの人が多数決だと思っていますよね。本来は、少数派の意見やマイノリティの意見も吸い上げられることが民主主義の良さで、これから若者人口が減っていく日本は、若者がマイノリティになってくるので、そういう意見も吸い上げていかないといけないですよね。だから、これからは、今までの日本の政治のあり方を捉えた上で、再認識しないといけないのは、私たちは民主主義社会に生きているということなんでしょうね。

サコ:私も同意見です。
民主主義そのものはいいかもしれないけど、ただ日本の場合は民主主義の問題なのか、あるいは拡大解釈しちゃっているのかな。

選んだ人とどう関わるかっていうところも、日本は避ける傾向があって、もっと修正を入れたり、意見を言ったりできるはずなのに、それをせずに、選んだ人が悪いことをしても、まぁ、選んだ私が悪かったのかもしれないねぇ、なんて言って、その人が捕まってから初めて「ああ、やっぱり」となる。でも、その手前で手を打ってそういう事態を避けることはできたはずなんです。
有権者の行動ひとつで避けられる最悪の事態もあると思うし、そこをきちんとやるかどうかが結構大きいのではないかなと思います。

民主主義に対するジャーナリズムと教育の責任は大

ニールセン:そうですね。そう考えると、やっぱりメディアやジャーナリズムの責任も大きいかなと思っています。

日本は今でもジャーナリズムっていう学問自体がきちんと確立されていなくて、ジャーナリストになる人たちは ジャーナリズムを勉強しないで、ジャーナリストになっていく。On the Job Trainingの形でジャーナリズムについて学ぶ形で、就職したメディアでつく先輩によってどう教わるかが変わってくるので、倫理観とか、ジャーナリズムとは何かということの共通理解が日本のメディアの中にないですよね。それが影響して、読者や視聴者に何を伝えるべきなのかにブレが出てしまうのかなと感じています。

サコ:私も同じことを考えています。そして、もう一つ、教育の責任もものすごく大きいと思うんですよ。

学校教育というのは、いかに意見を出していけるか、いかに自分のヴォイスを持てるか、いかに思っていることをきちんと責任を持って言えるか、を教えるのが重要です。しかし、日本の学校教育ではそのような経験を積む場を提供してこなかったということも大きいし、高校生になって、あなた、投票権あるから行きなさいって言っても、他人を知ろうとする姿勢もない人には、なかなか誰が立候補してるかも関心持てないんですよね。

でも、政治がもっと国民に寄り添って、国民は、政治とはどういう仕組みで行われているかを知ることについては、先程のお話のように、中学生でもいろいろなレベルでも、政治家が来て一緒に喋るとか、政治家のディベートに中学生が出席するとかしていれば、高校生や大学生になっていく過程で政治の重さということも実感を持って感られると思うし、それによって、政治に関わる方法も見えてくるんじゃないかと思うんです。

ニールセン:そうですね。デンマークのうちの近くの中学生も、模擬選挙をするんです。本物の選挙と全く同じ形式で投票日には同じように学校の体育館に投票所を作って、その前には討論会を企画したり、それぞれの政党の歴史とか地元でどういう基盤をつくってきたとか、今の地元の政治がどういうバランスで行われているかも調べて、討論会をやって、投票して、自分たちの投票結果と、実際の選挙の投票で出た結果を比較して、なぜ同じ、もしくは違う結果なのか、自分たちの目線と大人の目線は何が違うのかを話し合うんです。そういうことまでやっているので、みんな選挙にはすごく関心があると思うんですよね。

サコ:その経験は大きいですね。ただ、その関心を持ち続けていくことが重要ですね。政治に関係がない、政治に口出すのがタブー。でも政治が自分の人生に多大な影響を与えているにもかかわらずってところですよね。政治によって、すごく不便を感じたり、問題を感じたりしていると自覚することが大事です。

ニールセン:そうですよね。みなさんのストレスの元が政治がきっかけということも結構あると思うんですが、 そこに思いが至らないのかもしれませんね。


明日は、第三部【SDGsと世界と未来】をお届けします!

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