森林球太朗

森林球太朗

最近の記事

私のところにその二人が来たのは最近のことだった。 「はじめまして。奥脇義夫と申します。」 「はじめまして。保坂瑞恵です。本日はお忙しい中、お時間いただきありがとうございます」 二人の簡単な自己紹介の後、私も自分の名前だけ告げると、彼らは土産の品を差し出して柔らかい態度のまま席についた。 「わたしたちは、長野県の汐見村というところから来ました。先日お送りさせていただいたメッセージの件についてわざわざこのような席を設けていただきありがとうございます。」 うちの会社に隣接するこのカ

    • 大切なあなたに 『アクタージュ act-age』SS

      1 突然、どこか暗闇に落ちてしまった。 彼女は急に訪れた静寂に混乱した。 「どこかしら、ここ?」 彼女は不意に訪れた暗闇に、そっとため息をついた。 落ちた暗闇の先は深く、しかし体はフワフワと浮いていた。 しばらくすると、ゆっくりと足元から下へ下へと降りていった。 フワっと地面に着地した彼女は、暗闇に囲まれた自らの足元を探るようにその脚を伸ばした。 「なにかのドッキリとか?」 彼女の頭の中では弟と妹がドッキリ番組などでお決まりのパネルを持って、彼女を驚かせようとしているイメー

      • 旗と点

         私たちの国から議会制が撤廃されたのは何十年も前のことだ。  人口減少著しい地方議会は解散、自治体ごとの政治が推進され良くも悪くも地方分権が進んでいった。都市部に集中していた人口も年々数を減らし、地方自治政府の政策に惹かれ移住を決めた者から都市を離れていった。  もはや、国家制度は瓦解しこの国は小国の寄り合いのようになってしまった。  元首都であるこの都市もいまでは人口が50万人程度にまで激減した。 現在、中央政府は意味を成しておらずこの都市も自治政府によって統治されている。

        • HEROマシーン

           朝起きて目が覚めると、白い天井が上にあって、それがなんだか遠く感じた。  起き上がって、目元をこすって、閉まっているカーテンを静かに開けた。  今日は曇りなので空が暗いけれど、太陽は少しだけ面影を残しているようだった。  一人暮らしの部屋の隅っこから玄関に向けて歩いていくと右手に扉がある。  扉を開ければ洗濯機が目の前にあって、左手には洗面台がある。  洗濯機の隣にある細長い棚からタオルを一枚引っ張りだして、そのまま洗面台へ。   僕は顔を上げた。  なんだか夢を見ていた

          短編「運のいい男」

           「それにしてもあんたは随分な変わり者だな。俺なんかにあんな大金払うなんて」  男は黒塗りのワゴン車の2列目、真ん中の席で大きく足を広げながら助手席の男に話しかけていた。  「いえいえ。こちらも永山様のような方の助けになることができて光栄でございます」  「そうかい」  永山と呼ばれた男は首を横にねじり、窓へと顔を向けた。  永山という男は生まれてから自らをつくづく運の良い男だと感じていた。  他人のように汗水を垂らし努力せずとも大概のことは人並み以上にできた。さらにはそれを

          短編「運のいい男」