インドア人間はイマジナリーサマーを愛す。それでも晴れた空は気持ちがいい。

 暑いのは苦手である。ついでに言うと、夏場の行楽行事は大体スルーしてきた、引きこもり気味のインドア人間なのである。

 クーラーの効いた部屋で淹れ立てのお茶(熱い)とおいしいお菓子をいただき、読みかけの文庫本をめくる、この贅沢な時間……。自然に背いた怠惰な生物として、背徳感をおぼえつつも、とてもよい気分で堕落している。

 私の好きな小説に、樋口一葉の『たけくらべ』がある。詳細は別の機会に語るとして、主人公の少女が夕化粧をする描写がある。

 ……吹風すゞしき夏の夕ぐれ、ひるの暑さを風呂に流して……

 読んでいると、心地よい風がすっと流れていくような気持ちがする。華奢なガラス製の風鈴を鳴らすのは、こういう風がいい。美登利の水色友仙も、おしろいの香りとともに、さらさらと夕暮れ時の町に流れるのだろう。

 と、つい没入してしまった。

 現実の夏とは距離をおきたい私だが、いわゆる「夏の風物詩」は大好物である。要は架空の夏、イマジナリーサマーを涼しい部屋で楽しむのである。浴衣に花火、海水浴スイカ麦わら帽子ヒマワリの花パキッと割るタイプのソーダ味アイスキャンデー出会いと別れ……ひと夏の○○。浪漫であるね。

 妄想にひたっていても日々の家事は行わねばならない。洗濯が終わった。

 タオルを抱えて窓を開けると、ひさしぶりの快晴!白いタオルをどんどん干す。太陽がまぶしい。熱と光の圧が、むき出しの腕にかかる。見上げると、大きな大きな青空だ。夏の空は高いとか深いとかではなく、ひたすらに明るくて、大きい。

 熱風を受けてタオルがはためく。洗濯バサミをはずしてしまえば、タオルは空に向かってどこまでも飛んでいくのではないだろうか?

私は夏の青空の下で、洗濯物を干すのが好きだ。

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