SAKE DIPLOMA 試験対策を「超える」対策 その4-2 【日本酒における米】

こんにちは。

「あと」です。

今回は、数ある酒造好適米の中からいくつかの品種を取り上げ、それぞれ解説していきたいと思います。

1.品種探訪~愛山編~


まずは、教本でも最初にとり上げられている、愛山という品種についてです。


教本の中で、愛山について書かれた項(P.32)を見てみると、ちょっと奥歯に物が挟まったような感覚を覚えます。教本という性格上、特定の蔵の名を書くことははばかられるのでしょう。「灘の老舗の蔵元」「各地の蔵元」といったように蔵の名称がぼかして書かれており、なんとなく分かったような分からないような印象が残るのは私だけでしょうか。


少し調べてみると、この愛山という品種がたどってきた数奇な運命を知ることができます。ここでは、教本ではぼかされているその数奇な運命について述べていきます。


まず注目していただきたいのは、愛山の交配元、いわゆる親です。なんとこの愛山、「酒造好適米の祖」雄町と「酒米の王」山田錦の両者を親に持つ、スーパーサラブレッドなのです。その特性も、キング・山田錦と同等以上の心白発現率を誇り、粒も大粒で、奥深くふっくらとした優しい酒を造り出す素晴らしい酒米です。


一方で、雄町の欠点でもある背の高さも受け継いでしまっており、その倒伏性の高さが難点。心白があまりにも大きいために高精白にも向かず、軟質米で米が砕けやすく、その扱いは容易ではない。そのため、一時は育成試験も中止されています。


しかし、その特性を上手く活かして、密かに栽培を継続させていた蔵があります。それが、教本では「灘の老舗の蔵元」としてぼかされている、剣菱酒造です。剣菱酒造が米に求めている特性が、愛山の持つ特性とピッタリ合致したのです。農家としては、造り手の腕を選ぶような米よりも、山田錦のように需要が高い米を多く造りたい。そのため、剣菱酒造は契約栽培してくれる農家と共に、実に40年あまりに渡って愛山という品種を守り続けていました。

この状況を、一変させる出来事が起こります。


それが、阪神淡路大震災。


様々な人が、物が、甚大な被害を受けました。


剣菱酒造も、難を逃れることは出来ず。愛山の契約栽培も打ち切らざるを得ない状況に陥ってしまったのです。

これまで栽培を行ってきた剣菱酒造の撤退で、風前の灯となった愛山。しかし、その秘めたるポテンシャルに目をつけ、栽培を継続させようと乗り出した蔵がありました。

それが、銘酒の名高い『十四代』を手がける高木酒造です。彼らが中心となり、志を同じくする蔵の輪が徐々に広がりを見せます。2003年には、愛山の栽培と普及に努める11の蔵(高木酒造の他、南部美人、出羽桜酒造、亀の井酒造、東の麓酒造、長沼合名会社、廣木酒造、磯自慢酒造、松浦酒造、澄川酒造場、いそのさわ)が集い「酒道の会」を結成。こうした普及活動が功を奏し、現在では他にも様々な蔵が愛山を使用した酒を醸しています。こうした結果が、教本に「その品質に注目した各地の蔵元」という記述には集約されているのです。

山田錦と雄町という二大巨頭を受け継ぎながら、困難を乗り越えてクオリティが保たれてきた愛山。数奇な運命を辿ってきたこの品種を使用した酒とどこかで出会った時は、こうしたバックグラウンドにも思いを馳せつつ杯を傾けたいものです。


2.品種探訪~五百万石編~

今でこそ、米どころのイメージが強い新潟県。しかし、稲作が定着したのは、以外にも江戸時代以降のこと。住民の長年の悲願であった治水工事の甲斐あって、江戸時代以降は新田開発が盛んになっていきました。その取り組みが継続されてきた結果、新潟の米の収穫量は増加。研究開発も進み、その品質の高さは全国が認めるものへと成長します。

その結果として産まれたのがコシヒカリであり、そして、今回取り上げる五百万石であるわけです。

五百万石は、米どころとしての新潟県のイメージを定着させるのに一役を買っただけにはとどまりません。「淡麗辛口」という日本酒のジャンルの地位が向上してきたのも、五百万石に拠る所が大きいと言えるでしょう。

なぜ、五百万石は淡麗辛口の酒を生み出すのに適しているのか。それには、複数の理由があるのです。今回は、この点を解説していきたいと思います。

教本の、五百万石に関する項目(P.35-36)を少しずつ読み進めていきましょう。

交配元と試験醸造開始年、命名年と命名理由が述べられたあと(ちなみにSAKE DIPLOMA試験ではこれらは全て必須暗記事項)、まず紹介されているのが「寒冷地向けに開発された早生品種」である点。これに関しては、前回の記事でも述べたように、早生品種=淡麗辛口(になりやすい)という傾向があることを再確認しておきたいところです。まずはこれが、五百万石と淡麗辛口を結びつける、1つ目の理由であります。

次に紹介されているのは、「大粒」という特性です。これは、五百万石に限らず、酒造好適米に共通した特性でしたね。我々が日々口にする食用米に比べ、酒米は一粒一粒が大きい。大体5g程もの差があります。粒が大きいということは即ち、高精白にも耐えられるということ。雑味の無い綺麗な味わいの吟醸酒造りには欠かせない利点であるわけです。

さらに、「大粒」の記述に続き、「心白がある」という特性も挙げられています。そして、「蒸しあげたときに粘らず(「さばけがよい」と表現される)、外硬内軟の理想的な蒸米に仕上がるため、麹が造りやすい。」という記述が続いていきます。

心白とは、米の中心部にある、でんぷん粒の集積した部分のことでした。心白米は吸水性が良いので、蒸し上がった際にサラサラしていて扱いやすい。そのため、その後の工程に移っていく上で都合が良いのです。これを「さばけがよい」と言うのですね。

加えて挙げられるのが、「外硬内軟」。これも、酒米を語る上では外せないキーワードでしょう。読んで字のごとく、外側が硬く内側が軟らかい状態のことです。蒸米が外硬内軟に仕上がることで、麹菌が内側へと入り込みやすくなります。こうした理想的な蒸米を仕上げるには蔵人の方々の腕に拠るところが大きいのですが、心白米が持つ吸水性が良いという特性も、蒸米を外硬内軟に導く上では助けになってくれます。

「大粒」で「心白がある」という特性は、五百万石に限ったものではありません。酒造好適米全般に求められる共通の特性です。しっかりと理解しておきたい2点ではありますが、五百万石と淡麗辛口の関係を語る上で更に注目しておきたいポイントがあるのです。

それが、教本において次に述べられている「米質はやや硬く、溶けにくい。」という点です。これこそが五百万石を淡麗辛口の代名詞たらしめる2つ目の理由であり、早生品種に共通する特性でもあります。

これは、専門的な用語を抜きにして、シンプルに考えたほうが理解が早まるでしょう。早生品種とは、その名の通り、比較的早い時期に収穫を行う品種のことです。一粒一粒が熟しておらず(米は果実などと違い「熟す」とは言わないかもしれませんが)、硬い状態で刈り取られるわけです。その結果、醸造の過程においてもなかなか溶けだしにくい。つまり、米の成分がしみだす割合が低いということです。このため、完成する酒は淡麗で辛口のスッキリとした味わいになる、ということですね。

さあ、ここでもう一度、教本にアンダーラインを引くつもりで、要点を復習しておきましょう。

五百万石は「寒冷地向けに開発された早生品種」。そして、「米質はやや硬く、溶けにくい」。これに、酒造好適米全般の特性である「大粒で心白がある」という要素が加わることで、淡麗辛口の代名詞としての地位を確立しているのです。


3.次回予告

品種探訪と題し、愛山と五百万石という2つの品種に関して解説してきました。

そして次回、いよいよ「酒米の王」である山田錦を取り上げたいと思います。

品種1つで記事が書けてしまうくらい語るべき点も多く、SAKE DIPLOMA試験においても覚えておかなければならないポイントが多くあります。

「酒米の王」に、いかにして対峙していくか。乞うご期待!


注)私は、まだまだ日本酒を勉強したての身であります。記載事項に関しては、自らのSAKE DIPLOMA認定試験合格の武器になったことは事実ですが、専門的見地からすると誤りであることも多々あるかと思います。その際は、ご指摘を頂けると非常に助かります。










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