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出生順と親の子育ては性格に影響するのか問題

今回は,パーソナリティ心理学に関連するさまざまな誤解について,とある本からピックアップしてみたいと思います。

その本は「Great Myths of Personality」です。著者はDonnellanとLucusという,私自身も多くの論文をこれまで読んできた,アメリカのパーソナリティ心理学者です。

パーソナリティ心理学に関する28の「神話」について,心理学のエビデンスから考えるとどのようなことが言えるのかを,それぞれ数ページという短く簡潔な内容で解説したものになっています。ひとつひとつの文量も少ないですし,英文も読みやすいのではないでしょうか。もちろん,私自身が内容をだいたい知っているから……ということもありますけどね。

では,いくつかをピックアップしてみましょう。

出生順位はパーソナリティに大きな影響を与える

まずはよく授業でも質問にあがる,この話題です。長男長女は勤勉でしっかりしていて,末っ子は甘えん坊で,ひとりっ子は空気が読めないとか……(適当ですが)。ネットで検索してみれば,それぞれの出生順の性格についてさまざまなことが書かれた記事がどんどん見つかります。

さて,問題は「本当に違いがあるのか」です。これまた日本でも海外でも論文を探すと,けっこうな本数の論文が見つかるのですよね。そして「出生順と性格とのあいだに関連がある」という結果を示す論文も国内外に結構あります。

でも,いくつかの問題がありまして。

◎「関連がある」ということを示している論文でも効果量(差の大きさ)は小さい
◎超大規模なデータで年収や学歴などを含めて分析すると,出生順と性格との関連はきわめて小さくなってしまうらしい

といったことが報告されます。

というのも,たとえば家庭の年収や社会的地位と子どもの数は関連してしまいます。日本もアメリカも,社会的地位の高い家庭は子どもの人数が少ない傾向があるからです。こういったことを分析の中でコントロールしていくと,出生順と性格との関連はどんどん小さくなっていってしまう,ということです。

というわけで「関連は多少あるかもしれないけれど,一般に言われているような明確な関連はなさそう」というところでしょうか。

親の育て方が性格の違いの大きな原因となる

この研究も世界中にたくさんあるのですよね。親の養育態度と,子どもの性格との関連です。大学の卒業研究なんかでも,日本中で行われているのではないでしょうか。

でも,卒業研究なんかだと,たいてい,大学生自身に「小さい頃の親の養育態度」を尋ねて,現在の自分の性格との関連を検討したりするのですよね。すると何が起きるかというと,今の自分の状態から小さい頃の親の養育態度を思い出して(というか想像して)回答するので,本来の関連以上に「強く関連が出てしまう」という結果が生じがちです。昔のことを思い出して調査をすることをレトロスペクティブ(回顧的)な調査といって,研究の中では要注意とされるもののひとつです。

さて,もうひとつの研究のアプローチは,ふたご(双生児)に注目する方法です。一卵性双生のきょうだいの類似度と二卵性双生児のきょうだいの類似度に注目すると,そこから遺伝と環境が個人差のばらつきにどの程度の影響力をもつのかを推定することができるのです。

そしてその研究の中では,環境は共有環境と非共有環境というふたつにわけていきます。共有環境はふたごをより似させるように働く環境の要因で,非共有環境はふたごをに違ったものにさせるように働く環境の要因です。そして,共有環境は主に家庭要因,非共有環境は主に家庭外の要因だと考えられているのです。

ということは,共有環境があるパーソナリティ特性の個々人のばらつきに対してどれくらいの影響力をもつのかを推定すれば,おおよそ家庭要因の影響力がどれくらいなのかを推定することができるというわけです。

そして,さまざまなパーソナリティ特性について研究が行われてきましたが,結果的に,共有環境の影響力は「ほぼゼロ」だと推定されています。家庭環境の影響力は「ゼロ」となってしまうのです。

一般法則

これは,家庭環境に意味がないということを表しているのではありません。それよりも,「どの家庭にも通用するような一般的な法則が存在するわけではない」ということを表しています。

親が「部屋を片づけなさい」と言って,ちゃんと片づける子と,まったく片づけない子がいます。うちの子たちもそうなのですが……親が同じようなアプローチを子どもに対して行ったとしても,子どもたちの受け取り方が全然変わってくる,ということがあります。「親がこうしたから子どもがこうなる」という単純な図式ではなく,親が何をして子どもがどういう状態で,という組み合わせで結果がどんどん変わっていくようなプロセスがあると想像してみればいいのではないでしょうか。

親の育て方に意味がないのではなく,子どもとの相互作用が繰り返されていきますので,ほんの少しの要因が積み重なっていって,全然違う結果へとつながっていく可能性があるのです。

実際,子育てをしていて,親が言ったから子どもがすぐに何でも言うことを聞いてくれたらどんなに楽なことか……と思いますよね。

……というわけで,たった2つの内容を取り上げただけで文字数をずいぶん使ってしまいました。今回はここまでにしたいと思います。

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