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2022年に読んだ本の振り返り(6)

2022年に読んだ本を振り返るシリーズ,今回が最終回です。

国立大学

さて1冊目です。こちらの本を選んでみます。『「私物化」される国公立大学』(駒込 武 2021年,岩波書店)です。

この本の中では,7つの国公立大学で起きている問題をそれぞれ報告するルポルタージュを集めたものです。7つの章は次のとおりです。

第1章 大学が「私物化」されるとはどういうことか―下関市立大学
第2章 自由の風が止むとき―京都大学
第3章 政治に従属する大学へ―筑波大学
第4章 歯止めなき介入、変貌する大学―大分大学
第5章 放逐される総長―北海道大学
第6章 教育界に逆行する教員養成「改革」―福岡教育大学
第7章 権威主義化する大学「経営」イデオロギー―東京大学

私自身は私立大学にしか勤めたことがありませんので(非常勤講師としては国公立大学でも授業をしたことがありますが),ずいぶん組織のシステムが違うのだろうなとは思いつつ。でも近年の国公立大学の「経営」と「教学」の切り離しがもたらすさまざまな問題は,この本を読んでいて何度もため息が出てくるものです。

どこの組織であれ,上に何を言っても変わらないと感じれば,働いている人々はやる気を失い,その職場を去ろうともします。また,こういった状況は,日本の縮図だろうなとも感じます。皆さんは何を思うでしょうか。

では2冊目にいきましょう。

恐れのない組織

次は,『恐れのない組織―「心理的安全性」が学習・イノベーション・成長をもたらす』(エイミー・C・エドモンドソン 野津智子(訳)2021年,英知出版)です。

「心理的安全性」も,近年の流行のテーマですね。よく耳にするのですが,やはり1冊本を読んでおくことが全体像を把握するには有効です。

「心理的」という言葉を聞くと,あたかも心理的安全性が個人の何らかの心理的な特性のように思えるのですが,そうではありません。心理的安全性は組織の特徴であり,環境のあり方です。その組織に属する人たちが「怖れ」を感じないような環境を作ることが,心理的安全性をもたらすようです。

働く組織でも家庭でも,授業の中でも,何となく気になって「あれ?」と思ったときに気軽に発言することができず,なんとなく引いてしまうという経験をしたことは多いのではないでしょうか。それが「怖れがある状態」です。日本ならそういう状況は数限りなく思い浮かぶのではないでしょうか。でも,そういう状態をなくすことが重要なんだということが,この本を読むとわかるのではないでしょうか。

心理的安全性が欠けているために失敗した事例も,たくさん書かれています。今回紹介した1冊目の組織も……

映画を早送りで観る人たち

3冊目。『映画を早送りで観る人たち ファスト映画・ネタバレ―コンテンツ消費の現在形』(稲田豊史,2022年,光文社)です。

この本については,以前すでに記事に書いています。この本も,なかなか面白い印象がありました。

映画でもドラマでも,「鑑賞」ではなく「消費」「情報収集」として見る態度が,早送りでの鑑賞につながっているという指摘です。その背景には,「知っていないと話題に乗り遅れる」「人の話しについて行けない」という,コミュニケーション上の問題もあります。内発的な鑑賞ではなく,外発的な消費へと移行している問題です。

さらにその背景には,若者たちが置かれている状況も関係しています。中学生くらいになると,おとなたちから「何がやりたいんだ」「将来を絞り込め」「興味をもて」と何度も言われていきます。そして,映画に詳しい人,ドラマが大好きでいろいろなことを知っている「興味をもっている」人を見ると,焦ってしまうのです。そのことも,早送りやネタバレサイトへと促していく……という構造が述べられていて,とても興味深いと思いました。

現代の若者論として,とても興味深い1冊でした。

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