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ダークパターンとは

ネット上のサービスを使っていると「面倒だな」とか「しまった」と思ったことはないでしょうか。

広告をクリックして消そうとすると,間違えて広告自体をクリックしてしまって外部のサイトに飛んでしまうとか,解約しようとするけれどもなかなか目的が達成されないとか,いつの間にかサブスクリプション契約を結んでしまっているとか……。


ダークパターン

今回は,ネット上でよく見られる欺瞞的なユーザーインターフェースについてまとめられている,『ダークパターン:人を欺くデザインの手口と対策』という本の紹介をしたいと思います。

著者はハリー・ブリヌル(Harry Brignull)です。心理学や認知科学を学び,博士号を取得した後で研究者として働いていたのですが,現在はユーザーエクスペリエンスの専門家としてコンサルティングなどをしているようです。そして,「ダークパターン」という言葉の生みの親でもあります。

ディセプティブパターン

本のタイトルは「ダークパターン」なのですが,より正確には「ディセプティブもしくはマニピュラティブパターン」と呼ぶ方がよいようです。欺瞞的で人をだますパターンや,人を操作するパターンということですね。

他にも,同じような意味で用いられる言葉はあるようで,本の中でもまとめられています。

・有害なオンラインの選択アーキテクチャ(harmful online choice architecture):イギリスの競争市場庁(CMA)が使用する用語。
・アスホールデザイン(asshole design):Reddit[アメリカの匿名掲示板]などのフォーラムで使用される口語的な用語。
・ダークナッジ(dark nudge):リチャード・セイラー氏とキャス・サンスティーン氏が提唱した「ナッジ(肘で小突く・そっと押す)」という概念をもとに作られた用語で,行動経済学者がよく使用する。
・スラッジ(sludge):キャス・サンスティーン氏が広めた,よい行動を阻害するようなデザインのこと。

p.24

どんなパターン?

ディセプティブパターンには,どのようなものがあるのでしょうか。ひとつの分類方法として,本の中では次のものが挙げられています。

知的脆弱性を利用する戦略:人間は情報を論理的に分析する前に,それを知覚する必要がある。しかし人間の知覚は完璧ではないため,その弱みにつけ込んで情報を隠す手口がある(例:低解像度,小さい文字)。
理解力の脆弱性を利用する戦略:人間は読解力,計算能力,批判的思考,記憶に限界がある。それにつけ込み,必要以上に複雑なデザインを作る場合がある(例:冗長的な言い回しで書かれた規約や条件)。
意思決定の脆弱性を利用する戦略:認知バイアスは人間なら誰しもが犯し得る間違いで,偏った認識によって判断力が歪められることだ。それを利用し,意思決定に介入する手口がある(例:チェックボックスにあらかじめチェックを入れておき,デフォルト効果を狙う)。
思いこみを利用する戦略:人に優しいデザインは,スタンダードな設計のおかげでユーザーがプロダクトを想像しやすい。ところがこのスタンダードを逆手に取り,ユーザーを引っかける手口がある(例:×ボタンを「いいえ」ではなく「はい」に設定する)。
消耗させプレッシャーを与える戦略:注意力,エネルギー,時間は有限だ。これらが消耗すると,ユーザーは諦めたり,プレッシャーを感じたり,疲れて罠に引っ掛かりやすくなったりする(例:Cookieの同意ポップアップは,拒否するのが非常に大変な場合が多く,ユーザーを消耗させて同意に持ち込む)。
強制・ブロッキング戦略:強制とは,ユーザーが行いたいアクションの前に,別のステップを強制的に踏ませることだ。それを行わずして目的のアクションは完了できない。(例:購入を完了するために登録を必須にする)。ブロッキングとは,機能をまるごと削除することだ(例:ユーザーが自分のデータをエクスポートできないようにする)。
感情的脆弱性を利用する戦略:人間は,罪悪感や恥,恐怖,後悔などの負の感情を忌避する傾向にあり,それらを避けるための行動をする(例:フィットネスの勧誘を拒否する際,「いいえ結構です,不健康のままで構いません」というボタンをクリックしなければならない仕様)。
依存症を利用する戦略:人間は何かに依存しがちであり,害のある習慣でもなかなかやめられなくなる場合がある。無限スクロールやオートプレイのようなデザインテクニックは,行動サイクルをますます悪化させる可能性がある。

とはいえ,ディセプティブパターンの分類方法にもいろいろなものがあるようです。また,「これ以上パターンが増えない」と考えることも間違っているようです。

私たちにとって役立つパターンと,害になるパターンとは表裏一体で,分けることも難しいのです。認知的に負荷のかからない正しい方向へのパターンは,少しひねれば「利益へと誘導される」パターンになるのです。そして,ひとたび「利益を生み出す」と認識されれば,そこに隠れている問題を振り返ることも少なく,どんどん使われていきます。使えると認識されれば,次々と使う人が増えていくのです。

ブライトパターン

ディセプティブパターンに対抗して,「ブライトパターン」や「フェアパターン」を増やせばいいじゃないかという意見もあるようです。しかし,教科書の中には書かれていても,やはり普及はしていかないという問題があります。

ブライトパターンを義務化しても,効果は疑問が残るようです。というのも,デザインの可能性は無限に存在しており,言葉の選択,画像,レイアウト,ボタン,インタラクティブな要素などあらゆるものがデザインに含まれます。ビジネス上の目的でデザインが行われるのですから,少しでも「利益が上がる」ことが最優先される傾向があるのです。

ブライトパターンを使っていると言いながらも,実はディセプティブパターンになってしまっている,という仕組みにすることもできるだろうな,と想像できます。本の中には,次のように書かれています。

デザインは進化するのだ。改良され,追加され,調整され,削られる。デジタル時代において,デザインが真に完成することはない。革新とは常に前に進み続けることだ。

p.175

対処は

ネット上の活動が営利目的であり,あまりに多くのサイトがあることを考えると,ディセプティブパターンをひとつひとつあげつらって問題にすることも生産的ではありませんし,一部を問題にするだけのように思えます。そして,すぐに新しいパターンが生み出されるのですから,法的に規制することも困難です。

著者は「ユーザーインターフェースのデザインを説得行為として考える」という点を重視することを提唱しています。デザインは,企業の目的とユーザーのニーズの間でバランスを取る行為なので,常に「どのような結果が生じているか」を慎重に見ておく必要がありそうです。

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