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認知能力と職業パフォーマンス

大学生が就職活動をするときに,就職適性検査は必須といってもいいものになっています。そしてそのうちいくらかは,認知能力検査のような内容が含まれています。しかも,知能検査によく似た問題だったりするのですよね。公務員試験などでよく出される,空間把握とか数的処理とか,知能検査の問題そのものに思えます。

全体能力

昔から,認知的な能力は職業上のパフォーマンスに結びつくということは言われています。だからこそ,認知能力を測定する内容が,就職試験や適性検査に含まれているわけですね。

今から100年以上前,さまざまな認知的な能力がひとつの因子に収束してまとまるということが示されました。これを一般知能(g)といいます。より狭い範囲の認知能力についても,さまざまに検討されていて,全体がg,それに加えて個別の認知能力もあるという構造が見られると考えるのがよくある研究結果です。

なかなかイメージがつきにくいかもしれませんが,数学の能力みたいなものを想像してみるとわかりやすいのではないでしょうか。数学のテストの中に,計算問題や図形の問題,数列の問題や照明の問題が含まれています。それぞれは別の問題のように思うかもしれませんが,全体として「数学の能力」とまとめることもできるというわけです。さらに各教科の得点を合計して「総合得点」も算出しますよね。これが「g」と同じような考え方です。

そして,「g」が,職業上のパフォーマンスや成功をよく予測するということが報告されてきました。

CHC理論

近年,心理学者CattellとHornのモデルと,Carrolのモデルに統合しようとする試みがおこなわれています。これがCHC理論です。Carrolは,認知的な能力の因子構造を調べるために461のデータセットを検討して,一般的な能力因子(g)の下に,多数の「第2階層」となる知能因子を見出しました。

◎Gc(結晶性知能):語彙,知識,一般的な情報処理

◎Gf(流動性知能):思考,推理,洞察能力
◎
Gsm(短期記憶):一時的な記憶を処理・想起・利用する能力
◎
Glr(長期貯蔵と検索):保持した記憶を適切に想起する能力
◎
Gv(視空間能力):視覚的パターンを知覚,分析,操作,思考する能力

◎Ga(聴覚的処理):音のパターンを知覚し,処理・理解する能力
◎
Gs(認知的処理速度):課題をすばやく正確に処理する能力
◎
Gt(決断・反応速度):刺激に対する反応,決定の素早さ
◎
Gq(量的知識):量的情報,数的表現を操作する能力

◎Grw(読み書き能力):読み,筆記による意見表出などの能力

狭い範囲か広い範囲か

心理測定では,情報理論でも言われている「帯域幅と忠実度のジレンマ(bandwidth-fidelity dilemma)」という話題もよく出てきます。トレードオフとも呼ばれます。この観点が,全体的な知能と個別の知能領域との関係をよく表すのです。

だいたい,広い知能の範囲をカバーした得点(つまりg)は,広い範囲の活動を予測します。その一方で,狭い知能の範囲をカバーした得点(視空間能力とか認知処理速度とか)は,特定の活動を予測して,そこから外れるとうまく予測できなくなります。

そのかわり,全体をカバーした得点は,予測力が小さいのです。広い範囲をカバーする一方で予測力が小さいんどえすよね。一方で,狭い範囲を測定した得点は予測力が大きくなります。特定の分野だけに特化していると,その分野だけをうまく予測できるのですが,そこから外れると予測力を失います。

これが,「帯域幅と忠実度のジレンマ」という問題です。

ではこのことを踏まえて,認知能力検査の結果が職務パフォーマンスにどのように関連するかをメタ分析で検討した研究を見てみましょう(Cognitive Ability and Job Performance: Meta-analytic Evidence for the Validity of Narrow Cognitive Abilities)。

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