ナルシストたちの日常の恋愛

一口に「自己愛的(ナルシスティック)な傾向」といっても,その中身は多様です。

たとえば『病理的自己愛目録日本語版(PNI-J)の作成』という論文の中で,PNIというナルシシズムを測定する尺度が作成されています。

この尺度では,次の7つの側面から自己愛的な傾向を測定します。これらはいずれも自己愛なのですが,ずいぶん多様な内容が含まれると感じるのではないでしょうか。

◎誇大空想:成功や賞賛や承認を得るという補償的な空想にとらわれること
◎自己犠牲的自己高揚:過度に肯定的な自己イメージを保持するために利他的な行為を意図的に行うこと
◎搾取性:操作的な対人志向性
◎権威的憤怒:特権意識に基づく期待が満たされなかったときに生じる怒り感情
◎随伴的自尊感情:自尊感情の著しい変動の感覚と,賞賛や承認という外的供給源がない時に制御不全となるという自覚があること
◎脱価値化:必要とされた賞賛をしてこない相手に無関心になり,期待外れの
相手からの承認を必要としていたことを恥じること
◎自己隠蔽:他者に対して自分の失敗や欲求を見せないようにすること

またこれらは大まかに「誇大な自己愛」と「脆弱な自己愛」とまとめることもできます。部分的にどちらになるかが曖昧なところもあるのですが,おおよそ自分自身に強い自信をもち他者のことを気にしない自己愛の側面と,他者の評価を必要とする自己愛の側面に分けることが可能です。


自己愛と恋愛

自分を愛する「自己愛」と,他の人を愛する恋愛との関係というのは,世界中の研究者の関心を惹いてきた研究テーマの一つです。しかし,自己愛のどの側面に注目するかによって,恋愛のあり方もずいぶん変わってきそうです。

日常的な対人関係の中で,恋愛について調査をしつつ,自己愛的な傾向との関連を検討した研究があります。どのような結果が得られているのか,この論文を見てみましょう(Narcissistic traits and romantic relationship outcomes: A short daily diary investigation)。

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