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自閉症スペクトラム傾向と自己高揚傾向

自己高揚(self-enhancement)という現象があります。自分を実際以上によく見せようとする(あるいは実際以上に良い方向に歪めて見ている)という現象のことです。

そういう現象は何となくあることはわかるのですが,これは実は「明確な基準がない」という厄介な現象でもあります。

自己高揚を測定する

これまで,この自己高揚を明らかにするためのいくつかの方法が考えられています。

たとえば,心理尺度を自分自身で回答して,友人や知人にも回答してもらいます。他の人々が回答した得点と自分自身が回答した得点を比較して,どれくらい自分の得点がポジティブな方向に偏っているかを計算することで自己高揚傾向の指標とするという考え方です。

ただしここでも,基準がどこにあるのかという点は難しい問題です。複数の他者がある人物を評定したとしても,その評定が一致するとは限りません。

ふたつ目の方法は,同じ心理尺度を用いてまず自分自身を測定して,次にその測定用具を使って他の人を評価します。たとえば,大学生に自分自身を評価してもらってから,次に「平均的な大学生について回答してください」とお願いするのです。そうすると,平均的だと思っている大学生に比べてどれくらい自分がポジティブに評価されるのかがわかりそうです。なるほど,よく考えるものです。

ただしここでも,誰が「平均的な大学生なのか」という点は難しい問題です。自分が通っている大学の状況にも,結果は左右されそうです。全国の大学生の平均を思い浮かべて回答するのは難しそうです。

そこで三つ目の方法として,社会的望ましさを利用する方法が考えられています。ある質問項目について,「どれくらい望ましいことだと思いますか?」と多くの人に尋ねて,質問項目の望ましさを確定してしまいます。そして,その質問項目について自分自身がどれくらい当てはまるかを評価することで,「自分をどれくらい望ましいと考えているか」を推定するというやり方です。

ちょっとややこしいですが,こうやって「測定方法」によって概念を把握していくのも,心理学という学問の特徴だと言えます。

自閉症スペクトラムと自己高揚

この自己高揚について,自閉症スペクトラムとの関連を検討した研究があります。自閉症スペクトラム(ASD)は主にコミュニケーション上の問題が生じるのですが,その背後には「こころの理論が欠けている」という考え方があります。「こころの理論」というのは,他者が何を考えているのかを推測する能力のことです。もちろん,本当に何を考えているのかが当たるというわけではありません。状況から相手の考えを推測することができる能力ということです。

相手や周囲のことがよくわからなくなる,ということがあるなら自分を過剰に考えてしまう自己高揚の傾向を示す可能性もあるということになるのではないでしょうか。

では,この問題に取り組んだこの論文を見てみましょう(Autistic People Do Enhance Their Selves)。

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