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2019年に読んだ本のまとめ3

今回も,2019年に読んだ本の紹介です。今日は,人類や社会の歴史の法則について書かれた本を見てみたいと思います。

不平等を是正するのは崩壊しかないのか

まずはこの本『暴力と不平等の人類史―戦争・革命・崩壊・疫病』です。これも分厚いのですが,なかなか読み応えがあって面白い本でした。

この本で描かれている法則というのは,人間の社会は(残念ながら)必ず不平等が拡大する方向に進んでいき,限界に達したときには必ず崩壊にいたり,次に比較的平等な社会が現れる,というものです。そして,そこからもう一度,社会が不平等な方向に進んでいき,また限界に達したときに崩壊する……ということを何度も繰り返してきたということも描かれています。ただし,限界に達して崩壊するとは限らず,崩壊するときには戦争や革命,疫病などがきっかけになります。

私たちの人生は短く,長い視点で社会を眺めることができません。しかし長期的に見ると,必ずといっていいほど格差が拡大する方向に社会が進んでいくということが繰り返されています。こういった観点が得られることは,この本の良い点です。

 初めに所得と富への不平等なアクセスがあり,それが国家形成を助長して,国家の誕生とあいなった。しかし,ひとたび統治機関が確立されると,今度はそれが既存の不平等を増幅して,新たな不平等を生み出した。前近代国家は,政治権力の行使に密接に結びついた人々のために商業活動の保護措置を与え,さらに彼らのために新たな個人的利得の入手源を開発することにより,蓄積され,集中化された物質的資源を少数の人間が一手に握るためのかつてない機会を生み出した。長期的に見れば,政治的,物質的な不平等は,「各変数の増分がそれぞれに対応する別の変数の増分を生みやすくするという,相互作用的な効果による上昇スパイラル」とともに進化した。(p.58)

そして,「平和」で「平等」な現在の日本も,その法則に当てはまっています。第二次世界大戦前の日本は,世界的に見てもきわめて格差が大きい社会だったそうなのです。そういえば,戦前の大学教授といえば軽井沢に別荘を持っていたり,弟子のような書生を家に抱えていたり,お手伝いさんが家にいたり……と,現在の様子とはずいぶん違って描かれていますよね。

そしてその日本における格差社会が崩壊したきっかけは,戦争だったのです。

 しかし,このような急激かつ大規模な所得配分の変化もかすませてしまいそうなのが,これよりはるかに劇的なエリートの富の壊滅だった。公表されていた日本の最大財産の上位1%の実質価値は,1936〜1945年のあいだに90%下落し,1936〜1949年の下落率は約97%にもなる。全財産の上位0.1%となると,下落の幅はいっそう大きく,それぞれの期間で93%と98%以上に達した。実質的に,1949年の日本でならば最も裕福な世帯0.01%(つまり全体の1万分の1)と認められる資産額も,1936年であれば上位5%に数えられるにすぎなかった。財産がこれだけ収縮してしまえば,以前ならただの金持ちとされたレベルにも,もはや一握りの者しか到達できなくなった。得られるデータが断続的なため,日本の不平等が全体的にどれだけ縮まったのかを正確にたどることは難しい。しかし,1930年代後半には0.45から0.65のあいだだった国民所得ジニ係数が,50年代半ばまでに0.3前後まで下がっていることは察せられる。この下降傾向は,上位層の所得と富のシェアの縮小から伝わる大規模な平等化の印象は紛れもなく確かだったと思わせる。(p.152-153)

こういった観点で現在の日本社会を見ると,まだまだ格差は戦前のように大きくはなっていないかもしれませんが,その方向に進ませようとする力や進んでいる様子がなんとなく見えてくるように思います。

人類の歴史

次はもっと長い時間で人類を眺めてみましょう。2019年に出た本ではないのですが,『人体六〇〇万年史』の上下巻も今年読んだ本です。

進化については,どうしても誤解や曲解がおおくなるので要注意の知識だと思っています。人間が素朴に考える「望ましい」という感覚が,進化という考え方にとても結びつきやすいのです。でも,そこは本当に注意しなければいけません。

そして最後の,最も重要な適応のポイントだが,これはまさしく決定的な通告だ。生物はどれ一つとして,最初から健康で長命で幸せに生きられるように適応したわけではなく,そのほか人が必死にめざしている多くの目標にしても,それをかなえるために適応を果たした生物は皆無だということである。あらためて言うが,適応とは,自然選択を通じて形成される,相対的繁殖成功度(適応度)を高める特徴のことだ。結果として,健康や長命や幸福を促進するように適応が進化することもあるかもしれないが,それはその資質が,個体がより多くの個を生き延びさせられるようにすることに資する場合に限ってなのである。(p.32)

この本は,特に私たち人間の身体がどのような仕組みになっているのか,どのように働いて,どのような意味をもっているのか,そしてどのように進化してきたかを描いています。驚くのは,この本を一人で書いていることです。本当に,信じられないような知識量だと圧倒されました。

繰り返しになりますが,自然選択は「適者生存」ではありません。もう一度,本から引用しておきましょう。

ときどき,自然選択とは「適者生存」(survival of fittest)のことだと誤って思い込んでいる人がいる。ダーウィンは一度もこのフレーズを使わなかったし(これはハーバート・スペンサーが1864年に作った言葉だ),使おうとも思わなかっただろう。なぜなら自然選択は,比較級で「適者生存」(survival of the fitter)と言いあらわしたほうがいいものだからだ。自然選択は,完璧を生み出さない。不運にもほかのものより適応度が低かったものを排除するだけだ。この比較級での「適者生存」は,進化はもう過去のものだと思っている人があまりにも多い今日の世界で,何か有益な意味を持つだろうか?(p.278-279)

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