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遺伝と環境の両方なんてあたりまえじゃないか

この記事のタイトルなのですが,授業をしていても本当に「そんなのあたりまえじゃないか」という反応がよく出てくるのですよね。

でも,そんなに簡単ではないし「あたりまえ」と思っていながらも何だか釈然としなかったり,「でも結局どっちなの」とつい思ったりするのが,よくあるパターンです。

というわけで,今回はこの話について少し考えてみましょう。

なぜヒトは学ぶのか

安藤先生の著書『なぜヒトは学ぶのか 教育を生物学的に考える』の中にも,次のような一節が書かれています。

「遺伝と環境の両方」と聞いても,「そんなことあたりまえじゃないか」と素通りしてしまうそうなメッセージでしょう。しかしその一見あたりまえなメッセージが重要なのです。なぜなら,私たちはともすれば,そう言われてもなお「しかし結局,遺伝なのか,それとも環境なのか?」と,どちらか一方に答えを求めがちだからです。(p.160)

その前に,行動遺伝学の研究知見から得られる最も重要なメッセージは,次のことだと書かれています。

「いかなる行動の個人差も,遺伝だけからでも環境だけからでもなく,遺伝と環境の両方の影響によって作られている」(p.159)

両方なのはわかるけれど

きっと,表面的には理解できるのです。「遺伝と環境の両方が大事なのはあたりまえ」だと。でも,その「中身」がよくわからず,字面だけで理解するから,いざというときに「でも結局どっちなの」となってしまうのではないでしょうか。

この「結局どっちなのですか」は,本当によく見かけます。遺伝の話が出てくるときに「結局」という言葉が出てきたら,たいてい勘違いか間違いだと言っていいのではないかと思うくらいです。

カテゴリカル思考

この背後には,目に見える特徴をカテゴリカルに考えてしまうからではないかと思うことがあります。

たとえば,「外向的か内向的か」というカテゴリで性格を捉えたとします。

◎Aさんは遺伝的には外向的で,大人になった今も外向的です
 →いまAさんが外向的である理由は「遺伝のため」である
◎Bさんは遺伝的には外向的で,大人になった今は内向的です
 →いまBさんが内向的である理由は「環境のため」である

このように,表にあらわれるものをカテゴリカルに考えると,生まれもった特徴のままなら「遺伝のため」であり,生まれもった特徴から変化すれば「環境のため」となってしまうのです。このことが「結局」という思考を作り出しているのではないかと思うのですよね。

連続思考

足の速さのようなものを思い起こせば,世の中に「足が速い人と遅い人だけがいるわけではない」ことが想像しやすくなります。

そうすると,遺伝だけでも環境だけでも結果が生じるわけではないことが想像しやすくなるのではないでしょうか。遺伝的にも個人差のグラデーションがあり,他の子よりも少し足の速い子がどんどん走ることでますます足が速くなり,近所に広い公園があったり一緒に走り回って遊ぶ幼なじみがいたり,才能を見出して特別に走り方を教えてくれる指導者に恵まれたり……さまざまな環境と運と巡り合わせの中でますます足が速くなっていく様子が想像できるのではないでしょうか。

「外向性」も足の速さと同じで,とても外向的な人からとても内向的な人までグラデーションのように存在しています。

考えるヒント

この問題を考えるときには,ぜひ「両方」について考えてもらうといいと思います。なかなか難しいことかもしれませんけれども……。

特に努力しても行き詰まったとき,あるいは他人の行動に欠点や不満なところを見出したとき,ついこの疑問を発して,「遺伝だ」と結論を下してあきらめ,あるいは「環境だ」と結論を下して,それまでの環境を哀れんだり環境を改善させようとしたりします。そのときこそ「両方」を考えねばならない。そのとき問題となっている行動は,遺伝だけでも生じなければ,環境だけでも生じず,その両方の独特な関わりがあったからこその帰結であると理解しなければなりません。そして同じような生い立ちや状況にいた人と比較して,その人と異なる行動を引き起こし続けてきたところに遺伝的影響を,またその行動を育て上げ,そのときその行動を引き起こさせてしまった外的要因に環境の影響を読み解く必要があります。もちろんいずれも遺伝だけ,環境だけを切りはなして取り出すことはできませんが,それぞれの特質を思い描いてイメージすることはできるでしょう。それが考えるヒントになるはずです。(p.160)


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