ドラッグで性格が変わる？
少し前のことですが，アメリカのアリゾナ州で麻薬密輸用とみられるトンネルが発見されたとニュースになっていました。
トンネルが発見されたのは，もとケンタッキーフライドチキンの店で，今は空き家になっている建物のようです。そこから深さ7メートル，長さ180メートルのトンネルが掘られ，メキシコの住宅のベッドの下に通じていたということです。この建物の所有者は末端価格116万5000ドル（1億3千万円くらい）もの薬物を所有しており，このトンネルでメキシコから密輸をしていたのではと疑われています。
薬物使用者の性格
さて，薬物使用者の性格にはどのような特徴があるか，という研究があります。
たとえば，日本にも来たことがあるテラシアーノと，NEO-PI-Rでも知られるコスタたちの研究です。
調査対象者は，メリーランド州東部ボルチモアに住む1102名の人々です。1981年に最初の面接調査が行われ，その後1992-1998年，2004-2005年に追跡調査が行われています。パーソナリティ検査とともに，喫煙，マリファナ，コカインおよびヘロインの使用状況が尋ねられました。
マリファナ…アサ科大麻草の葉や茎を乾燥させたもの。樹脂化したものをハシシといい，マリファナとハシシをあわせて大麻と呼ぶ。マリファナはメキシコ・スペイン語。
コカイン…コカの木の葉から抽出されるアルカロイド。局所麻酔にも用いられ，常用すると中毒症状を示しやすい。コカ・コーラの名前の由来はコカの葉だという話もありますがそれは否定されているようです。アトランタのコカ・コーラ博物館に行ったことがあるのですが，今も「レシピは秘密」だと言っていました。
ヘロイン…ケシの実から抽出される果汁を乾燥させたアヘンからモルヒネ，さらにそこからさらに依存性が強いヘロインが作られる。ヘロインは商品名。
この中に，次のような人々がいました。
・一度も喫煙していない（341人），以前喫煙（429人），現在喫煙（318人）
・マリファナ未経験（576人），以前経験（380人），現在経験中（88人）
・コカイン・ヘロイン未経験（887人），以前経験（178人），現在経験中（29人）
いずれも平均年齢はだいたい40代後半から50代なのですが，こんなにマリファナやコカイン・ヘロインの経験者がいるものなのですね……。
そして，ビッグ・ファイブ・パーソナリティ（と，NEO-PI-Rなのでそのファセット[下位次元]）の得点を比較していきます。
結果は，次のようなものでした。
喫煙に関しては，一度も吸ったことがない人よりも以前の喫煙者と現在の喫煙者は神経症傾向が高く，現在も喫煙している人はそうではない人よりも勤勉性が低いという結果でした。
マリファナに関しては，経験したことがある人や現在も経験中の人は未経験の人よりも，開放性が高く協調性と勤勉性が低い傾向がありました。
コカイン・ヘロインに関しては，現在使用中の人はそうではない人よりも神経症傾向が高く，未経験者よりも経験したことがある人，現在経験中の順に，勤勉性が低くなっていました。
安定してみられたのは勤勉性の低さで，喫煙とコカイン・ヘロインは神経症傾向の高さ＋勤勉性の低さが共通していました。マリファナはアメリカでは許容度が高い（比較的多くの人が経験しやすい）こともあってか，少しその背景が違っていそうです。好奇心や関心につながりやすい開放性がかかわっている点が特徴的です。
ちなみにテラシアーノとコスタの喫煙と性格の論文は以下の記事でも紹介しましたが，神経症傾向が高く勤勉性が低いときにいちばん喫煙する傾向が見られるという点で一致していました。
喫煙がドラッグの入り口になりやすいことは過去の研究も示していますし，仲間関係がそこには強く影響することも知られています。喫煙と薬物の使用の間には，性格上の共通点もあるということでしょうか。
ドラッグで性格は変わるのか
昨年テキサスに滞在していたときに，受け入れてくれたゴズリングと訪問研究者たちで夕食を食べていたときに「マジックマッシュルームって使ったことがある？」という話になりまして。そこにいた誰も「いやいや，ありませんよ」と言っていたのですが（当然，私もありません），「実は論文があるんだよね」と教えてくれました。
７月にヨーロッパで開かれたパーソナリティの学会でも同じようなテーマの発表がありました。ドラッグを使用すると性格が変わる，という論文があるのです。
特に，幻覚剤やサイケデリックドラッグと呼ばれる，幻覚やトリップ体験をするドラッグについては，使うことで性格の変化が生じやすいようです。
最近では，そういったドラッグと性格変化の論文をまとめたレビュー論文も出ています。
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