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宗教によって変わる社会経済的地位の重み

生活水準や生活の程度を表現する指標のひとつに,社会経済的地位(Socioeconomic Status; SES)と呼ばれるものがあります。日本語の呼び方は他にもあるのですが,収入や教育水準や職業の状況などを総合的に考えたときに,社会のなかでどれくらいの位置にいるかを表す指標です。

この社会経済的地位ですが,高低は私たちにも大きな影響を及ぼすとされています。

◎SESの低さは,心理的な幸福の低さに関連する
◎SESの低さは,ネガティブな感情に悩まされる傾向がある

といったように,自分自身の社会経済的な地位は,心理面にも関連するとされます。

国によって違う

しかし,この社会経済的地位と幸福度の関連は,国によっても随分違っているようです。

たとえば,国全体が経済的に発展するにつれて,低い社会経済的地位の悪影響が弱まるということもいわれています。国全体が発展すれば,人々の生活が底上げされて基本的な欲求が満たされるようになるだろう,という考え方ですね。

ところが最近,世界中を調査した大規模なデータが集まるにつれて,実は違った結果が見られるようにもなってきていることが報告されています。つまり,社会経済的地位の低さと幸福度の低下との関連は,発展途上の国々よりも先進諸国で大きく見られるという報告がされるようになってきたということなのです。

どうして?

どうしてそんなことが起きるのでしょうか。

ひとつの説明は,先進国では社会経済的地位が高いことが重要で,社会経済的地位が低い人たちはこの重要な要素を満たすことができていないので,幸福度が大きく低下する,というものです。国全体の人々が裕福になることを重要視しているのであれば,裕福になれない人は一気に不幸になるという可能性です。

宗教は関連する?

今回紹介する研究は,まったくちがう観点について検討するものです。

それは,宗教性です。国によって,どの程度宗教を重要視しているかは異なります。そして,宗教というのは規範を守り,集団を維持し,その国の文化を形作る大きな要素でもあります。そして,宗教の内容によっては,低い社会経済的地位であっても,幸福感の高さ維持されることも期待されます。なぜなら,個人の豊かさに大きな価値をおかない宗教も多いと考えられるからです。

実際はどうなのでしょうね?この論文で確かめてみましょう(National religiosity eases the psychological burden of poverty)。

分析の対象となっているのは,3つの世界規模のデータセットです。ひとつは156か国から150万人以上,二つめは85か国の約150万人,そして三つめは92か国の約27万人です。果たしてどうなるのでしょうか。

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