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幼少期の予測不可能性がナルシシズムを高める可能性

割引あり

ナルシスティックな性格を伸ばすような幼少期の経験というのは,存在するのでしょうか。人間が幼少期の環境や経験によって,ある程度は影響されるのではないかというのは,直観的にもそう思いますし,実際に何かがあるのなら,子どもたちを育てる際の注意ポイントになってきそうです。


厳しさと予測不可能性

生涯を通じてさまざまな認知過程や行動過程に大きな影響を与える社会生態学的側面としてよく研究されているのが,次の二つのポイントです。

◎厳しさ(過酷さ):環境が個体に与える全体的な物理的負担のこと
◎予測不可能性:幼少期の局所的な環境のいくつかの側面が頻繁に変化すること

環境の厳しさは,虐待やネグレクト(育児放棄)などとしても表現されますが,それだけでなく,生育家庭の社会経済的地位,必要な資源へのアクセスの制限,病気の罹患率や死亡率の高さなど,またこれらを生みだす要因として取り上げられます。

予測不可能性は,幼少期の過酷さの確率的変化のことを指すのです。資源へのアクセスが無秩序に変化すること,病気の罹患率や死亡率に影響を及ぼす要因が不規則に生じるような環境要因として表現されます。予測不可能性の要因としては,親の離婚や家庭内に家族とは無関係な大人がいることなどは,予測不可能性の例となります。

速い生活史戦略

予測不可能な環境にさらされることは,より速い生活史戦略に関連すると言われています。より速い生活史戦略が,何につながるかと言いますと……。

◎性的な関係性の早期化
◎性的パートナー数の増加
◎親としての子への投資の減少

自分が持つ資源を短期的な結果に集中させ,長期的な将来へ投資しない傾向につながるというのが,速い生活史戦略です。

パーソナリティと生活史

加えて,速い生活史戦略は,ダークなパーソナリティに関連することが知られています。ダーク・トライアド(マキャベリアニズム,サイコパシー,ナルシシズム)は,速い生活史戦略に関連していて,これらのパーソナリティが他者を利用してリスクをとり,短期的な利益を重視し,親としての責任や義務よりも短期的な交際への努力を優先することに関連すると言われます。

ダークな性格の中でも,ナルシシズムはほかの二つと異なり,健康的な側面と不健康的な側面の両面を含む,複雑な様相を示します。おそらく,ナルシシズムの側面によって,幼少期の予測不可能な環境の影響の様子が異なりそうです。実際にはどのような関係が見られるのでしょうか。

では,こちらの論文を見てみましょう(The early life of Narcissus: The connections that childhood harshness and unpredictability have with narcissistic personality traits)。

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