研究室を見れば教授の性格がわかる?
大学教員の研究室って,入ってみるとやはりそれぞれ,雰囲気が違いますよね。同じ建物の中の他の先生の部屋に入ると,雰囲気が大きく違っていたりして驚くことがあります。本が山積みになっている研究室,きれいに片付いていて同じ広さの部屋のはずなのにとても広く感じる研究室,スタイリッシュなものが置かれていておしゃれな雰囲気の研究室など。
職業柄,やっぱり本棚にどんな本が置かれているのかも気になります。ざっと本棚を見回すと,その先生がどんなことに興味を持っているのかが想像されますよね。
さて,そういう部屋の雰囲気はどれくらい使っている本人の性格を反映するのでしょうか。
目次
・出世作
・驚かれる論文
・手本にされる論文
・論文に出る所属大学院らしさ
・部屋の研究
・リサーチ・クエスチョン
・オフィスを見てパーソナリティを当てる
・ベッドルームを見てパーソナリティを当てる
・部屋を見てわかること
出世作
研究者にも「出世作」という業績があります。その研究者の「代表作」とみなされるような研究業績や書籍ですね。
研究者にとっては,たくさん引用される論文がそれにあたるかもしれません。とはいえ,狙ってその論文を書くことができるとも限らないのです。書いた本人も予想しない思わぬ論文が多くの論文で引用される,ということもあります。
今日紹介する論文は,その著者にとっての出世作のひとつだと思います。もっとも,彼の場合はそれ以上に引用されている論文はあるのですが……。
驚かれる論文
テキサス大学に滞在していたとき,毎週水曜日に研究会が開かれていました。研究会の名前は「Social Personality Area Meeting」となっていて,略称は「SPAM」です。たぶんこの命名センスは,今日紹介する著者(ロンドン出身&モンティパイソン好き)のものだと思います。おかげで,研究会の案内メールがことごとく迷惑メールフォルダに振り分けられていきます。
モンティ・パイソンのSPAMスケッチ(吹き替え版)はこれです。
……ひと番組ずっと通して観るともっと面白いかもしれません。ちなみにエンドロールもSPAMだらけです。このモンティ・パイソンのスケッチが,SPAMメールの語源です。ということで,先ほどのSPAMと書かれたメールが迷惑メールフォルダに振り分けられるというわけです。
さて,何回目かの研究会のディスカッションのとき,テキサス大の社会心理学者ビル・スワンが,同僚の論文である今日紹介する論文を話題に出して「初めて読んだ時は本当に驚いた」と言っていたのです。いくら同僚とはいえ,大御所の研究者にそんなことを言わせる論文ってある?と,それを聞いた私が驚きました。
手本にされる論文
この紹介する論文は,「同じ枠組みで研究される後続の論文を多数生み出した」という位置づけの論文でもあります。いわば,他の研究者からお手本にされる論文です。
私もそういう論文を何度か目にしたことがあります。あ,この書き方はこの論文をお手本にしているな,ということに気づくことがあるのです。
自分自身についても,よくその研究者の論文を読んでいてお手本にした論文はありますし,以前自分が論文に書いたフレーズと似た言い回しが使ってあるのを見かけることもあります。「その引用の仕方は自分が最初に書いたのでは」というかたちで,別の論文で先行研究が引用されていたりすることもあります。その結果のまとめ方はたぶん自分が最初のはず,ということも。
そういうことは,コピー&ペーストの剽窃ではないのです。文体を真似たり,構成を真似たり,論の流れを真似たりするのも勉強ですし,学生の様子を見ているとそれもひとつの能力のようなものです。
そうやって身につけて書き方を自分のものにして,そこから少しずつ自分なりの書き方を作り上げていくものではないでしょうか。
論文に出る所属大学院らしさ
時に,文章の書き方は指導教員から院生,また大学院の先輩から後輩へと教えられていきます。ですから,その大学院らしい癖のある論文の書き方,というのがあったりもします。名古屋大の教育心理の大学院生が書く調査系の論文はなぜかそれっぽい癖というか雰囲気が当時はあったと思いますし,筑波の青年心理っぽいとか,まあそれぞれに。
ちなみに論文の書き方を真似するときには,ひとつランクが上のものを参考にすると良いと思います。
卒論であれば修論を参考にし,修論であれば博論を参考にし,博論であれば出版されている研究書を参考にするのがいいのではないでしょうか。そうすれば,少し上のレベルを狙えます。
部屋の研究
さて本題に戻りましょう。
論文の著者は,私のテキサス大学滞在時の受け入れ教員であるサム・ゴズリングです。タイトルは「A room with a cue」で,「合図(手がかり)のある部屋」といった感じでしょうか。
この論文は,「本人のパーソナリティ⇔環境⇔観察者の推測」の関係を扱うものです。
この研究を勧めるためには,次の情報を手に入れます。
1. 部屋を使用する本人のパーソナリティ
2. 部屋の中にあるものや印象の情報
3. 部屋を見ただけで使用者のパーソナリティを推測した情報
2.と3.は,部屋の使用者を知らない学生が部屋だけを見て評定します。
この3つの情報を手に入れて分析するという一連の手続き,研究スタイルを定着させたという点だけでも,この論文の価値があります。
ちなみに,彼の研究のまとめはこの本にも書かれています。
リサーチ・クエスチョン
この論文には,いくつかのリサーチ・クエスチョンが設定されています。
1.複数の観察者は,環境だけを見てその使用者のパーソナリティの共通するイメージを抱くのだろうか。
2.環境の観察者のイメージは,正しいと言えるのだろうか。
3.観察者は環境のなかの何を手がかりとして使用するのか。どの手がかりが実際に伝わるのか。
4.観察者のステレオタイプは,複数の観察者間で共有されるのか。
この研究では部屋を見せるだけで観察者が共通したイメージを抱くのかどうかを検討します。そのイメージは,本当に部屋の使用者のパーソナリティを反映するのでしょうか。もし本当に使用者のパーソナリティが伝わるのであれば,何が手がかりとなって伝わるのでしょうか。そういった疑問に,研究のなかで答えていこうと試みます。
オフィスを見てパーソナリティを当てる
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