タイプ「D」パーソナリティって何?
心理学ではたまに「それって語呂合わせ?」「言い回しの問題?」といいたくなるような研究が積み重なっていくことがあります。それはそれで面白くて,そういう研究もありなんだな,と少し自由な気持ち(?)になったりすることも。
以前,タイプAとタイプBの記事を書いたことがあります。タイプAとは,いつも急いでいて,精力的に仕事に没頭し,イライラしやすくて敵意や攻撃性を抱きやすい性格傾向のことで,タイプBはその逆の健康な性格傾向のことでした。
そしてタイプCとは,感情を強く感じてもあまり表に出さない傾向や,感情そのものを押さえつけようとする傾向,ストレスに上手く対処できずに落ち込んだり抑うつ気分を抱きやすく,簡単にあきらめるといった特徴をもつ性格傾向のことでした。
それぞれの詳しい内容は,記事を読んでいただくとして,今回もその続きです。
アルファベット順
話は簡単です。「A」「B」「C」と続いてきたら,次は何でしょうか。
当然「D」ですよね。ということで,タイプDパーソナリティの研究というものが行われています。
「え?」と思うかもしれませんが,ちゃんと測定する尺度があって,それを使った研究結果が報告されている論文があって,しかも論文の数はそこそこあるのです。
それにしても「ABCで次がDって」と思いましたよ,私も初めて見たときには。
タイプDの特徴
さて,タイプDパーソナリティの特徴です。
◎いらだちやすい
◎不安を抱きやすい
◎ネガティブな感情を抱きやすい
◎そういったネガティブな感情を抑圧しやすい
こういった特徴なのだそうです。全体的にネガティブな感情を抱きつつも,それを押さえつけて我慢する(社会的に抑制する),というのがタイプDパーソナリティを持つ人の典型的な状態です。
Dとは何か
このアルファベットの「D」なのですが,「distressed」(苦痛,苦悩)とか「disesae-prone」(病理傾向)と表現されることがあります。これらの頭文字の「D」というわけです。私自身はひそかに「depressed」(抑うつ的,落ち込みやすい)の「D」でもいいんじゃないかと思ったりすることもありますが。
タイプAのAはHeart 「Attack」(心臓発作)と「activity」(活動性)で,タイプBはその逆。タイプCは「cancer」(ガン)と「calmness」(静かさ)。そしてタイプDは「depression」(抑うつ)と「distressed」(苦悩)というふうに,それぞれ並べると覚えやすいですね。いや,本当に語呂合わせというか英単語のニュアンスの問題ではではないのですか?
いずれにしても,健康ではない状態のことを指して「D」と言っているようです。
冠状動脈性心疾患
タイプAやタイプCと同じように,タイプDも病気との関連で注目を集めた研究でした。
特にこの性格傾向は,冠状動脈疾患(coronary heart disease; CHD)との関連が取り上げられています。ネガティブな感情を抱きつつそれを抑圧する,という特徴を聞くと,たしかに内臓には良くないだろうな,というイメージはあります(Personality, emotional distress and coronary heart disease)。
21世紀に入ってから,この概念は注目されるようになっていき,14項目の簡便な尺度も開発されました。この論文に書かれているように,当時の研究の勢いが感じられます( Is Type D Personality Here to Stay? Emerging Evidence Across Cardiovascular Disease Patient Groups)。
ビッグファイブとタイプD
タイプDパーソナリティとビッグ・ファイブ・パーソナリティとの関連を検討した論文があります(Type D Personality: A Five-Factor Model Perspective)。日本パーソナリティ心理学会の大会にもゲストできたことがある,ベルギーのDe Fruyt先生の論文です(ちなみにお名前は「デフロイト」と発音すると聞いたはず……です)。
この研究では,95名の警察官と60名の看護師を対象に調査が行われています(平均32歳)。
おおよそ,タイプD傾向は,
◎神経症傾向とプラス(0.50から0.70くらい)
◎外向性とマイナス(-0.40から-0.60くらい)
◎勤勉性とマイナス(-0.40くらい)
◎協調性とマイナス(-0.10から-0.40くらい)
◎開放性とは無関連
という特徴を示しました。
特に神経症傾向とのプラスの値は,安定して見られるようです。
タイプDの内容からして,神経症傾向と強い関連にあるのはまあ,そうだろうなという感想です。
日本語の尺度
タイプD傾向を測定する尺度の日本語版も開発されています。
この論文では日本語版尺度の作成後,冠状動脈性心疾患として通院中の患者と,健常群との比較も行われています。そしていくつかの項目では,有意な差が見られたことも報告されています。
タイプDへの批判
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