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開放性が高い地域でパンデミックが起こりがち

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は2020年に入ってから世界中に広がり,全世界で公衆衛生上の緊急事態が発生しました。しかしひとつの問題は,国によってCOVID-19の影響力が異なっていたという点です。このような地域差は特にパンデミックの初期に顕著でした。しかしワクチンが普及して混乱が収まった現在でも,大きな地域差が生じています。

パンデミックへの対応は個人レベルでも問題になるのですが,政策決定やさまざまな行動規制,個々人の行動への介入は国・都道府県・州・郡・市といった地域レベルで行われます。従って,どのような地域の特徴がCOVID-19の流行に影響したのかを解明することは重要です。


さまざまな要因

これまでにも,さまざまな地域の要因がCOVID-19流行の地域差の要因として検討されてきています。

◎年齢構成
◎人種・民族構成
◎経済発展の状況
◎所得水準

これらの要因は,地域の豊かさや文化に関連しそうです。しかし,パンデミックの地域差を考えるうえでは,まだまだこれらの要因だけでは理解が不十分であるかもしれません。より直接的に社会的な行動に影響を与える要因を考えることはできないでしょうか。

地域の性格

近年,地理的な観点からパーソナリティ(性格)特性を捉える研究が盛んになっています。アメリカ合衆国やイギリス,ドイツ,スイス,そして日本でもパーソナリティと地域差が報告されています。

◎パーソナリティ特性は地理的に集積していて,地域の平均値に差が生じている
◎パーソナリティの地域差は政治,経済,社会,健康に関連する結果に関連している
◎外向性と協調性が高い人びとが多い地域は,社会的活動の割合が高い
◎開放性が高い人びとが多い地域は,社会的規範が緩くて見知らぬ人との接触が多い

パンデミックと地域の性格

地域のパーソナリティ特性は,パンデミックへの対応にも関連するのでしょうか。その可能性はこれまでの研究でもいくつか見出されています。

たとえば,外向性と開放性のレベルが高い地域ではCOVID-19の拡大しやすかったという報告があります。また,歴史的に伝染病の発生率が高い地域は,外向性と開放性のレベルが低いという研究もあります。特に,外向性は社会的な行動と関連しますし,開放性は探索行動や見知らぬ人との接触を促進する傾向があります。これらのパーソナリティ特性の高さは,社会的接触がCOVID-19の感染に大きな影響を及ぼすことを考えると,感染に関連が想定されます。

しかし,個人レベルと地域レベルとでは,矛盾した結果も報告されています。たとえば開放性の高さは,個人レベルでは感染に対して保護因子(感染を抑制する要因)として働きます。しかし一方で地域レベルに関しては,地域の感染率とプラスの関連をすることも報告されているのです。

アメリカ合衆国とドイツのデータを使って,COVID-19の感染初期段階の感染状況とパーソナリティ特性との関連を検討した研究を見てみましょう。こちらの論文です(Regional personality differences predict variation in early COVID-19 infections and mobility patterns indicative of social distancing)。

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