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良いリサーチクエスチョンを立てるためには

研究をするときには,リサーチクエスチョン(研究上の疑問)ということを考えます。リサーチクエスチョンというのは,研究を行う際に立てられる疑問や課題や問いのことです。これは個別の仮説のことではなく,仮説よりももっと大きな段階の疑問で,論文全体のテーマと考えても良いものです。リサーチクエスチョンに従って,もっと細かい仮説や問いが立てられていきます。

そして,良い研究を行うためには,よいリサーチクエスチョンを立てることが必要となります。でも,研究をこれから始めようとする学生の皆さんの様子を見ていると,これがなかなかうまく立てることができない状態が続くことがあります。

どうしたらよいリサーチクエスチョンを立てることができるのでしょうか。「Examples of Good and Bad Research Questions」という記事がありますので,それを参考にしながら自分自身の経験も踏まえつつ,考えてみたいと思います。

ある程度の複雑さが必要

よいリサーチクエスチョンは,ある程度複雑な答えを求めます。「Yes」「No」 で答えることができるような簡単すぎる疑問や問いだと,あっという間に答えが求まってしまいます。できれば,もう少し込み入った回答が期待できる疑問の方が良さそうです。

(A)友人が多いと幸福になるのだろうか。
(B)どのような友人とのかかわり方が,幸福感を向上させるのだろうか。

(A)の疑問は,「はい」「いいえ」で答えることができてしまいます。それに対して(B)の疑問は,関連があったとしてもそこからもう一歩先に研究を進めることが必要になってきます。そのほうが,論文全体もきっと面白いものになりそうです。

焦点をあてる

リサーチクエスチョンは,あれこれ拡散してしまうのではなく,どこかのトピックに焦点が当たっているほうが望ましいといえます。

(A)友人数の多さは幸福感を高め,年齢が上がるほど自尊感情は高まるのか。
(B)年齢に伴って自尊感情の平均値はどのような変化を示すのか。

(A)の疑問ですが,幸福感と自尊感情は別の概念ですので,ひとつの論文のなかで扱うべきなのかどうかはちょっと注意が必要です。論文の問題部分を書くのが大変そうです(というイメージが浮かぶのも,その研究分野で論文を書いた経験がないと難しいかもしれませんが)。

できれば1つの論文はひとつのはっきりとしたテーマがあったほうが良いですね。

答えが出てきそうな疑問を

たとえ興味深い疑問を出しても,その論文のなかではとても答えが出てこない疑問というものもあります。もちろん,答えが出ないような深遠な問題を追究すべきことはありますが,取りかかろうとする論文のなかで解決できる程度の疑問でないと,その研究の区切りをつけることができなくなってしまいます。

(A)神は存在するのか。
(B)神への信仰の強さは幸福感を高めるのか。

(A)の神が存在するかどうかは追究すべき問題であるかもしれませんが,いま取り組んでいる研究のなかでとても答えが出るとは思えません。(B)であれば,調査をすればある程度答えが出せそうです。

価値判断に注意

特に心理学の研究についてなのですが,研究のなかで価値判断をするときには注意をする必要があります。何をもって「よい」「悪い」と考えるかは,そんなに簡単に答えが出せるわけではないのです。

(A)どのSNSがいちばん良いのか。
(B)各種SNSの使用時間と幸福感との間にはどのような関連があるのか。

(A) では,「どのSNSが良いですか」というアンケートを集めることはできますが,なにがどう良いのかについては,そこからはなかなかわからないかもしれません。(B)のように幸福感に関連するということが示されれば,それを理由として「良さ」に結びつけていくこともできそうです。

抽象的すぎない

抽象的すぎるリサーチクエスチョンは,研究のなかで何をしたら良いのかがわからなくなってしまう可能性があります。

(A)幸福感はどんな影響を与えるのか。
(B)幸福感が高い人は低い人よりも身体的な健康を向上させるのか。

(A)幸福感は何かの影響を与えると思うのですが,中身が明確にならないと,研究のなかで何をしていいのかがわからなくなってしまいそうです。(B)だと,身体的な健康を何かの指標で測定していけば,関連が検討できそうだなとイメージすることができます。

「なぜ」に注意

「どうしてそうなるのか?」という疑問は悪くはないのですが,論文を書いていくと,どんどん拡散していってしまう危険性があります。できれば,もっと明確な疑問にしておきたいところです。

(A)友人数が多いとなぜ幸福になるのか。
(B)友人数はどのように幸福感を高めるのか。

この2つの疑問はよく似ているのですが,「なぜ」という問いは答えを拡散させてしまいそうです。それを「どのように」と置き換えることで,友人数と幸福感のあいだに入るプロセスを検討するという方向に研究を焦点づけることができます。

オリジナリティ

やはり,先行研究をちゃんと調べた上で,まだ検討されていないリサーチクエスチョンを考えたいものです。もう何度も何度も検討された疑問をまた立てても,あまり良い研究になることは見込めなさそうです。

とはいえ,何度も検討されているけれどもちゃんと結論が出ておらず「本当にあるの?」という疑問が浮かぶ場合には,それを検討する意義はあります。メタ分析を行うことで「どれくらいの関連なのか」を明確にするとか,海外では行われているけれども「日本でもあるの?」というリサーチクエスチョンを立てることはあるでしょう。

調べなくてもわかってしまう

これも,研究を始めたばかりの学生がやりがちなことです。

A)自尊感情と幸福感との間には正の関連があるのか。
(B)若年者と高齢者では,自尊感情と幸福感との関連のしかたが変わるのか。

(A)ですが,自尊感情も幸福感もポジティブな感情を反映しますし,まああえて測定しなくても答えはわかるのではないでしょうか。確かに,このようなリサーチクエスチョンを立ててしまう気持ちも分からなくはないのです。だって,実際に調べてみて,関連がみられなかったら論文にならないのではないか……ということに不安を抱いてしまいがちだからです。でも,調べなくてもわかるような問題や,先ほどの項目のようにこれまでに何度も検討されてきた問題を,特に検討の必要性がないにもかかわらず,わざわざあらためて労力をかけて調べる必要はありません。

その一方で(B)のような疑問だと,(もちろん研究の背景についてどのような説明をするかにもよりますが)検討していくべきだと感じるのではないでしょうか。もしかしたら,年齢が上になっていくと自分自身を認識することを基礎とする自尊感情と,周囲を認識して抱く幸福感との間の関連が薄くなっていくかもしれません。そうすれば,発達心理学の研究としても意味がありそうです。

良いクエスチョンを考えてみよう

どうでしょうか。なんとなく,よりよいリサーチクエスチョンがどのようなものなのかというイメージは掴めてくるでしょうか。

とはいえ,やはり最初は指導している教員がサポートするのが一番ですね。それに,研究分野によって意味のあるリサーチクエスチョンのかたちは変わってきます。試行錯誤しながら,よいリサーチクエスチョンを探していってもらえればと思います。

なお今回の記事は,以前Quoraに回答した内容をアレンジしたものです。

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