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ひとつの数字だけを見ると間違えてしまう

今回は,とある本の中に書いてあった例を取り上げて,ひとつの数字だけを見て判断することの危険性に注意を向けてみましょう。

取り上げる本は,文庫版の『がん—4000年の歴史』です。上巻と下巻がありますが,今回の例は上巻(p.412-413)に書かれています。

新しい検査

わかりやすいように,箇条書きで書いてみましょう。

◎人口もがんの死亡率もまったく同じ,隣り合う二つの村がある。
◎どちらの村でも,がんと診断される年齢の平均は70歳である。

◎一方の村に,感度の高いがんの検査法が導入される。
◎その検査はがんの検査としては完璧で,検査で陽性の男女は即座にガン患者として診断される。
◎この検査は非常に感度が高く,ごく初期のがんの存在を明らかにする。

◎この検査の導入後すぐに,ごく初期のがんが発見されるようになったことから,村Aのがんの診断年齢が70歳から60歳になった。
◎しかし,検査の導入後も,めぼしい治療法は生まれなかったので,平均の死亡年齢は二つの村で同じままである。

◎検査が行われている村Aでは,がんは平均60歳で発見され,患者は80歳まで20年間生存する。
◎検査が行われていない村Bでは,がんは平均70歳で診断され,80歳まで10年間生存する。

生存期間

「生存期間」に注目してみましょう。すると,村Aは生存期間が平均20年間,村Bは生存期間の平均は10年間となります。あたかも,新たな検査が開発され実施されたことによって,村Aの生存期間が上昇しているかのように見えてしまいます。

しかし実際には,この生存率の上昇は本物ではありません。新しい治療法は誕生しておらず,敏感な検査方法だけが開発されたのです。死亡する時期の平均は,以前とまったく同じなのです。

もちろん,死亡率を計算してやれば,検査の開発によっても数字は改善されないので状況が理解しやすいのですが,その他にも様々な条件によって私たちを惑わす数字が出てくる可能性がありますので,数字を目にしたときには注意深くなっておきたいものですね。

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