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人生のライフイベントで性格は変化するのか

割引あり

「性格(パーソナリティ)というものは,いったん確定したらそこからは変わらない」と考えている人が世の中にはたくさんいるようです。

心理学ではパーソナリティをあるカテゴリに割り当てるのではなく,ある特徴について多くの人が非常に低い得点から非常に高い得点まで少しずつ並んでいくような「特性」として扱います。そして,パーソナリティ特性は,思考・感情・行動の幅広いパターンであり,ある程度時間や場所を越えて安定していることとして扱われます。

このような定義からも,パーソナリティは決定されたら変わらない,という印象を与えるのかもしれません。


変化

おそらく問題は,「安定している」のとらえ方が,心理学者とこの言葉を聞いた人との間でズレているのではないかと思います。研究の中で「安定している」というのは,時間を空けて調査を行って,2回の調査の間の相関係数がせいぜい0.70程度を指すことを言います。これって,研究としてはそこそこ「安定している」と表現されるのですが,一般の感覚からすると「ずいぶん変わる」という印象を抱く数値であるかもしれません。

ちょうど,体重のようなものだと考えるのが良いと思います。「変化するけれど安定している」のです。体重が毎日コロコロと変わってしまうようなことはありません。毎日体重計に乗ると,それなりに安定した数値を示します。しかし、変化しないわけでもありません。時間をかければ結構大きく変化します。そして,各個人の体格に合った体重のレベルというものもあります。身長が高く体格ががっちっりしていれば,体重は大きめになります。

あるパーソナリティ特性に注目したときのパーソナリティの数値も,同じようなものだと考えてみるのはどうでしょうか。

年齢

体重はたいてい,年齢を重ねると数値が大きめになっていきます。もちろん個人差もあります。やせたまま年をとっていく人もいれば,人って行く人もいます。世界的に見れば,中年期以降になると体重は増えていく傾向があります。

パーソナリティも同じように,年齢を重ねると一定の方向に変化する傾向があります。たとえば,ビッグ・ファイブ・パーソナリティの勤勉性(まじめさ)や協調性(やさしさ)の得点は上昇傾向を示します。これは日本でも欧米でも同じような傾向を示していて,おそらくそれぞれの文化で重要かつ望ましいとされる方向に,得点が変化すると考えられています。これを成熟の原則と言います。

出来事

たぶん,何もないのに変化することはないでしょう。体重についても,増加するような生活習慣があり,結婚や出産などライフイベントの影響も受けます。

パーソナリティ特性についてはどうなのでしょうね。やはり,人生の中での重要な出来事の影響を受けるのでしょうか。恋愛関係,結婚,子どもの誕生,別居,離婚,パートナーの喪失,卒業,就職,失業,退職といったライフイベントの経験によって,パーソナリティ特性が変化するかどうかをメタ分析で検討した研究があります。こちらの論文を見てみましょう(Life Events and Personality Change: A Systematic Review and Meta-Analysis)。

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