見出し画像

別離

母親のことを書いていて、つらつらと思い出している。

一度テレビに一緒に出たことがあって、ローカル番組だが「花咲がタイムズ」という番組の「背負え!おんぶs MAN』というコーナーだった。
現在TBS(といっても制作はCBCらしいけど)の「ゴゴスマ」の司会をしている石井亮次さんがCBCのアナウンサーだったころに栄(名古屋の繁華街)の街角で声をかけられた。
夏の暑い盛りで何人もの人に声をかけていたらしいが、ことごとく断られているのだという。
そのコーナーは日頃世話になっているのに感謝の気持ちを伝えられない母親をおんぶしてみよう、という趣旨だったと思う。
話を聞くうちにだんだん彼が気の毒になってきて承諾してしまい、スタッフ一同と家に向かった。

母親ははじめ固辞していたが、もう石井アナをはじめスタッフがすでに来ているのを知ると渋々出てきた。
当時住んでいたところは名古屋でも都市部ではなくて、徒歩圏内に県営緑地公園もあるようなのどかなところだったから、とりあえずその公園まで行って、そこでおんぶをし、しばらく歩いてからベンチでお礼を述べるという筋書きだ。

ちょっとネットを見てみたら、ちょうどぼくの回のオンエアを見ていた人がいて、ご自身のブログに感想をチラリと書かれていた。
ずいぶん昔の話なのに、と改めてデジタルタトゥーについて考えてしまった苦笑

サムネイルの画像はそこから拝借した。

まぁなんというか……

晩年の母親は脊柱管狭窄症を患っていて背骨を圧迫骨折していた。
いつも背中が痛い痛いと繰り返していた。
この数年後には痴呆が酷くなって深夜徘徊を繰り返すようになってしまう。
やがて痛みから自由に動けなくなって入院。
そして半年もしないうちに亡くなってしまった。
最後はぼくのことすら分からなくなっていたが、そうなる前、入院したばかりの頃に「ウチに帰りたいなぁ」と呟いたのが、ぼくとの最後のやり取りになった。

結局望みは叶えてやれなかった。
当時すでにぼくの家族は両親とは別に住んでいて(はじめは同居だったけれど仕事の都合で別居)、母親の面倒は父親がみていたから、とてもそんな状態で家に戻すのは難しかったのだ。
いわゆる「老老介護」である。
せめてぼくだけでも帰っていてやれば...。
母親が亡くなったあと、ぼくはそう思い続けた。
いや、今でもそう思う。
ぼくは仕事に託けて逃げていたのだ。

それから3ヶ月で、今度は父親も急逝した。
まるで後を追うようだった。
ひとり暮らしになった父親とは、母親が亡くなった後の四十九日の法要で会ったのが最後だった。
仕事があったので法要を済ませると、弾丸で東京に戻るというぼくらを玄関先で見送っていた父親の姿は、今も目に焼き付いている。

口には出さなかったが寂しかったのだと思う。
葬式の後、近所のおばちゃんに「今でも隣の部屋からひょこっと出てくるような気がしとるわ」などとこぼしていたと聞いた。
ぼくが買い物なんかの時に手が塞がると危ないから、と送ったリュックを嬉しそうに背負っていた、とも。

暖かくなったら親父を東京に呼んでもいいか、と家人に言ったのは法要の帰りだった。
そのまま住んでもらっても構わないと思った。

2月の終わり頃、毎週安否確認などとふざけながらかけていた電話に父親が出なかった。
はじめは買い物か病院に行っているのだろうと思った。
でも何度かけても出ない。
おかしい。
ぼくはその日の仕事全てをキャンセルして名古屋へひとり向かった。

ぼくは父親をひとりで逝かせてしまった。

ぼくくらいの年齢になると親と別れるというのが現実的になる。
当たり前の話だが親は自分よりも年上なのだから、順序からすれば親の方が先にいく。
でもそれは親が元気なうちには、これもまた当たり前だが子供としては実感がない。
子どもは親は永遠にいて、永遠に元気だと思っている。
まさか本当にいなくなるとは思いもしなかった。
何をバカなことを、と思われるかも知れないが、本当にそう思った。

これを読んでいる、まだご両親がご健在の方。
できるだけ一緒に過ごすのをお勧めする。
この先何年になるか、それを思うとうんざりするというのも分かる。
昨今は毒親なんて言葉もあって、それぞれ事情はあるのだろう。
でも可能ならば、あなたが許せる範囲でいいから。

どんなに孝行しても、もうこれ以上できないくらい孝行しても、亡くなった時には、もっとこうすればよかった、ああしてやればよかったと後悔するという。
ぼくは父親が亡くなったときに自分を責めた。
親が亡くなったのは自分のせいだ、とも本当に思った。
家人が「そう思うのを無理にやめなさいとか違うとかは言わない。あなたはこの先ずっとそれを背負って生きていくの」と言った。
つくづく人とはなんと業の深い生き物か。

父さん母さん、本当にごめんよ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?