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KC Interview Vol.5 仕事観が変わった夜

前回に引き続き、KPMGコンサルティングの人材開発室ディレクターの金子さんと弊社の百瀬朝子のインタビューの模様をお伝えいたします。
 
コンサルティングファーム解体新書 KPMGコンサルティング

今回は「コンサルタントとはどういった仕事なのか」という観点から、金子さんが初めてプロジェクトにアサインされた経験とそこから得た ‟やりがい” について語っていただきました。


初めてのプロジェクト

ATJ 百瀬(以下、百瀬):
これからコンサルタントを目指す人に、コンサルタントの仕事がどういったものかをお伝えできればと思うのですが、金子さんのコンサルタント時代、印象に残っている出来事はありますか。
 
KPMGコンサルティング 金子ディレクター(以下、金子D):
新卒で入社後、人事から、何がやりたいか聞かれたのですが、大学時代に抽象的な学問をやっていたので、仕事ではなにか具体的なことをやりたい、と伝えました。その時に提案されたのが、サプライチェーンでした。当時、サプライチェーンが何かもよくわかっていなかったのですが、若かったこともあり勢いで、「ではそれで」とお願いしました。
 
そこでアサインされたのが、浜松にある業務用プリンターを製造しているメーカーで、SAPのビックバンを導入するプロジェクトでした。(※ビッグバンとは基幹系業務モジュールを一括導入・稼働させる方法)
 
この業務用プリンターは、大きく複雑な機械で、消耗品の補充、故障修理と、アフターサービスが発生するのですが、これをタイムリーに提供できないと、クライアントの顧客である印刷会社のビジネスに大きな影響がでる非常に重要な部分でした。
 
加えて、この業務用プリンターは、プリンター本体を販売したときよりも納品後の方が利益が大きく、トナーなどの消耗品や故障修理、メンテナンスなどのアフターサービスがその鍵を握っていました。よって、アフターサービスネットワークが構築されていない海外では、プリンターの売れ行きが好調になると、逆に赤字になってしまうという矛盾が生まれていました。
 
アフターサービスネットワークは、今でこそ当たり前のビジネスモデルですが、当時はコールセンターを設置して、お客様とのコミュニケーションルートを作り、消耗品や人を手配する、という発想がありませんでした。

アフターサービスで売上をあげるためには、サービス担当者の育成、修理に必要なパーツをどこにどのくらいストックしておくのかを決めなければなりません。海外へビジネスを展開するとなると、それこそ世界中で対応が必要となります。そこで当時は、まだ日本で導入事例が少なかったSAPのCSというアフターサービス管理モジュールを1年かけて導入することが僕の新卒としての最初のプロジェクトでした。
 
百瀬:
あ~マニアックなところですね!
 
金子D:
本当に、マニアックな領域でした。
それまで社会ってなんだろうと考えていた青年が突然そんな仕事をやるわけで。そうすると、お察しの通り、できるわけないですよね(笑)
 
まず、何を言っているのかがわからない。日本語なんですけどね、クライアントが会議で話していることが理解できないんです。
 
1日の仕事が終わって滞在していたホテルに帰り、一夜漬けで勉強していました。わからないことがあったら、とにかく人に聞く。それでなんとかキャッチアップして翌日のミーティングに臨む、ということをとにかく1年間繰り返し、わからないなりに必死に食らいついていました。
 
アサインされた最初の頃は「新卒君でしょ」みたいな扱いでした。当然ですが、その道で30年近くやってきた部長さんが、新卒の若僧に、見向きもする訳がないですよね(笑)
でも、そんな新卒の僕が価値を発揮する場面がありました。
 
実は、学生時代にちょっとだけプログラミング、というよりはただのHTMLで、ウェブ制作みたいなことを個人的にやっていたんですよ。
 
百瀬:
なるほど、ちょっとHTMLでソースコードを書いた経験があったのですね。
 
金子D:
ソースコードは、結局変数と論理で繋げられるじゃないですか。その経験がヒントになりました。
サービスパーツを世界中のどこに何個配置するかは、当然誰かが考えてやらなければならないことですが、その当時は、ベテランの部長さんが、自身の経験を基に頭の中で計算して弾き出していました。
 
部長さんが決めているということは、逆にいうとその部長さんじゃないと決められない。今時の言葉を使うと、これはサステナブルではない。だから仕組み化しなければいけない、という話になりました。

その時に、僕、これならできる!と思ったのです。要は、部長さんの頭の中にある論理になっていない何かをヒアリングして、それを論理的に整理してアルゴリズムを構築する。それは、ソースコードを書いたことがあったからこそ、InputとOutputをどのようなアルゴリズムで繋げるか、という形に落とし込めたんだと思います。
 
百瀬:
素晴らしい......!
 
金子D:
もちろん、実際のプログラミングの部分に関しては、外注していたシステム会社へ依頼したのですが、そのシステム会社の担当者がインドの方で、僕はその方と部長さんの橋渡しをしました。実はこれが、僕がコンサルタントとして初めて出した小さな小さな価値。そこから徐々にですが、クライアントが僕の話を聞いてくれるようになりました。ただ、そうなるまでに半年くらいかかったんですけどね。
 
 

「やりがい」を見つける

そのプロジェクトは、僕と上司の2人で回していましたが、上司が他のプロジェクトのヘルプに行くこともあって、最終的に新卒のピカピカの1年生でしたが僕1人で頑張っていました(遠い目)。
 
無事僕の担当部分は完了して、明日、東京に帰るという前夜、クライアントが飲み会を開いてくれました。その飲み会が終わった時に、その部長さんにもう1杯行こう、と声をかけてもらったんです。それまでは、帰りがけに一緒に飲みに行くような間柄ではなかったのに驚きました。
 
今でも忘れられないのですが、深夜2時頃、浜松の駅前にあった小汚いラーメン屋に行きました。すでに酔っ払っていて細かい記憶がないのですが、鮮明に覚えている場面があります。
その部長さんから、「金子さんがいてくれたからこのプロジェクトはうまくいったよ、ありがとう」って言われました。今でもはっきりと覚えています。そして、この僕が、世の中を斜めから見ていた僕が、号泣したんです。
 
百瀬:
あ~いい話!親目線で泣ける(笑)
 
金子D:
でしょ、泣けるでしょ(笑)
今思うと、とてもシュールな光景ですよね。浜松の駅前のラーメン屋で、50代の部長が、25歳を泣かせてるんですよ。見方によってはパワハラともとれます。(笑)どうやって言語化して良いのかわからないくらい、いろんな思いが交錯していたのですが、すごくシンプルにいうと、僕は嬉しかったんです。本当に、心から、嬉しかった。
 
百瀬:
聞いていて、こちらまで心が震えました。おっしゃる通り、”嬉しかった”の一言に尽きますよね。
 
金子D:
これが、僕の人生の1つの転機となりました。社会人になったものの、実は3年くらい仕事を経験したら大学に戻ろうかな、とも考えていたんです。でも、深夜2時にラーメン屋で号泣した経験をすると、もうこの仕事の虜になってしまったわけです。
 
今になって考えれば、あの部長さんは、大してありがとうとは思っていなかったと思います。僕も大したことはできませんでしたから。それでも、大人と大人の礼儀として、最後くらい‟ありがとう”と伝えなければ、と思っていたのではないかと。
 
そんなありふれた‟ありがとう”で、号泣してしまうくらい、思いのほか僕の胸に突き刺さって。あれ、自分はもしかしてコンサル好きかも!こういう仕事好きかも!と思うようになったのです。(笑)またあの感情を味わいたい、という一心でここまで来た気がします。とはいえ、悲しいかな、上手くいっているプロジェクトでは、同じレベルで感動はしないんですよね。
 
百瀬:
対比だからですよね。大きな困難を乗り越えるからこそ大きな喜びが得られる。小さな困難を軽く乗り越えても、小さな喜びしか得られない。
でも、どんな大変なことがあっても、最後喜びで終われば、もう辛かったことも忘れちゃいますよね。忘れられないこともあるけれど(笑)
 
金子D:
そうです、チャラになるんです。僕のコンサルタントとしての生き方が変わるきっかけを与えてくれたあの部長さんには今でも本当に感謝しています。
 
最初のプロジェクトでの経験があるからこそ、大学に戻ることなく、十何年間も現場でコンサルタントとして仕事をし、今でもコンサルティング業界にいるわけです。
 
また、この出来事をきっかけに、早いうちに僕のような思いをして、テクニックとか表面的な何かではなくクライアントのために全身全霊で仕事ができる、そういうコンサルタントを育てたいと思っています。
 
就活の時、よく“やりがい”という言葉が使われますよね。OB・OG訪問でお会いした先輩方や、周りにいた大人がよく使っていたのを覚えています。ただ、まだ学生だった僕には、‟やりがい”と聞いてもピンとこなかったんです。社会学を学んでいたこともあって世の中を斜めに見ていましたし、資本主義も個人的に好きになれなかった。なので、仕事というのは、僕にとっては自分の体力や能力や時間を切り売りして、生活の糧を稼ぐ手段という認識でした。
 
そこにやりがいを求めるというのは、僕独自の世界観にはなくて。それでも周りの先輩方が、何かというと‟やりがい”というので、辟易していた部分もありました。
そんな僕が、25歳、コンサル1年目、浜松の夜、部長の言葉に涙して気がついたんです。
そうか、これが‟やりがい”か、と(笑)
 
百瀬:
笑笑 なるほどね。
 
金子D:
よく、コンサルティングファームに入る前と入ってからとでギャップはありますかと質問されるですが、声を大にして言いたい!
‟やりがい”です!やりがいがあるよって。

(次回に続きます)

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