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オンナトモダチ

―やあ。
―おお。
―どうしてるかなと。
―ソコソコ元気。
―毎年、葉桜を見る度に君を思う。
―ああ、満開は嫌い、葉桜が好きって話したっけね。
―そう、あの話のせい。
―今は満開も好きだよ。
―そうか、ではこれからは春に二度君を思う。
―惚れてまうがな(笑)

私のトモダチ。
左右非対称な髪型をしていて、黄色いスポーツカーを手懐けている。
無駄な笑顔無し。その代わり照れた顔が可愛い。
腕を組んで大股で歩く。
パンパンに膨れたペンケースからはなんでも出てくる。
コンバースに絵の具を撒き散らして履いており非常にサマになる。
東京でクリエイティブな仕事をしていて多忙。
フリーランス。独身。

私。
生まれてこの方髪を染めたことがない。
チャイルドシート付きの無難なファミリーカーで暮らす。
いつも笑っていたらそういう顔になってしまった。
お気に入りの革のほっそいペンケースには多機能ペンが1本だけ。
いわゆるスニーカーは持ってない。
住まいは東京から電車で1時間。
のんびり子育て中。主婦。

「あんたたちは何か創る時のボルテージと相性がすこぶる合うんだね。
それ以外はどこも似てないね(笑)」

彼女と私の実家に集合して、紙粘土で森を再現することに火が付き、
毛虫や落ち葉やキノコなんかを明け方までせっせと工作する様子を見て、
呆れた母がこう言った。

「そうか。似てないのか。」

「え。なに。似てる??」

確かに色々なことが全然違う私たちだけど、私はなんとなく似たもの同士だと思っていた。
そのことにも初めて気づいた瞬間だった。

「私さ、いつもどこか君に憧れているんだよね、多分。」

朝。
私は力作のピンクのイモムシをつつきながらそんなことを言ってみる。
ふたりで作った紙粘土の森が、お日様の光を受けて嬉しそうにしている。

「自分の人生はそれはそれで好きだけど、こうじゃなかったら、君みたいに生きてみたいなと思うわけさ。」

「へえ。」

「自分がとらなかった選択肢Bで輝いているのが、君。」

キノコの角度を修正していた彼女の手が止まる。

「そういうキミも、私の選択肢Bだよ。」

あ、あの可愛い照れ笑い。

「人生はひとつしかないけどさ、君と出会ってから、ふたつ分味わえているような気がする。」

紙粘土の森に朝の新しい風が渡る。

命が吹き込まれて動き出したら楽しいのに。

「幸せでいよっかね。」

「そーだな。」

私達は、いつの日か相手の葬式で他にない喪失感を味わうのかもしれない。

似ていなければ似ていないほど、他人事に思えない不思議な相方。

私の大切なオンナトモダチ。

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She is 6月特集テーマ『おんなともだち』に寄せて
はなむらここ


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